「働く妻」が働けば働くほど不幸になる深刻理由 妻の幸せを左右する夫の家事貢献と会話密度

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分析によると、生活満足度は、本人家計負担率と配偶者との関係(食事、洗濯、会話)から影響を受ける。本人家計負担率とは、夫婦共働きの場合に、家計所得の総計のうち夫ないし妻の所得の占める比率のことを意味している。

すなわち家計所得に占める自己の貢献比率である。この比率が上がれば、夫ないし妻の働く密度(すなわち所得)が増加することを意味する。配偶者との関係は、配偶者が家事(食事と洗濯)にどれだけ寄与しているかと、夫婦の会話の密度である。

働けば働くほど幸福度が下がる既婚女性

分析結果から得られた結論をまとめてみよう。

第1に、既婚女性に関しては、本人の家計負担率が高くなる(すなわち本人がもっと働く)と、本人の生活満足度が低下するのである。すなわち自分が働けば働くほど家計所得は増加すれど生活満足度(幸福度)は下がるのが、既婚女性で働く人の気持ちなのである。

一方で既婚男性に関しては、本人がもっと働いて所得が増加しても、生活満足度には影響を与えない。女性と男性とでは自分がもっと働くことの効果に関して、異なる評価をしているとの発見は興味深い。

第2に、共働き夫婦において、配偶者の家事支援の効果はどうであろうか。夫が洗濯の手伝いをすれば妻は生活満足度は上がるが、食事の準備は何も影響はなかった。一方、妻が食事や洗濯をする効果は何もなかった。これは夫はそれらは妻がするものと思い込んでいるので、生活満足度への影響はなかったと見なせるであろう。

第3に、配偶者間の会話密度の増加は、夫も妻も生活満足度(幸福度)を高めていることがわかったので、夫婦生活、ないし結婚生活円満の秘訣は会話の時間を長く、かつ濃密に行うべし、ということになろうか。

共働きの既婚女性は自分が働けば働くほど、自己の生活満足度が低下するが、夫に関してはそれがないということになる。これは一にも二にも、夫が家事・育児の協力をしてくれない現実に接して、妻の不満が高まることによる幸福感の低下で説明できる。自分が頑張って仕事、家事・育児に取り組んでへとへとになっているのに、夫はそれに見向きもしてくれないのであれば、自分だけの苦労が高まることへの不満は当然である。

夫側にも言い分はある。会社で夜遅くまで残業をさせられて帰りが遅くなり、休日も用事があるので家事・育児の時間がないという返答である。

これは事実でもあり、もっともらしく聞こえるが、残業と言いながらダラダラと仕事をしていたり、飲み会に時間を使っている可能性もある。休日に関しても、競馬・パチンコ・野球・サッカー・ゲームなど、自分の趣味を優先してしまう夫もいる。本心は家事・育児をしたくないという気持ちが見え隠れしている。

これらを避けるには次の2つが重要である。第1に、社会全体で働きすぎの日本の現状を打破する必要がある。第2に、男性に「ワークライフバランス」の重要性を徹底的に教え込む必要がある。これは働いている男性には当然として、学校教育の段階から男子生徒に教える必要がある。

橘木 俊詔 京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授

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たちばなき としあき / Toshiaki Tachibanaki

1943年生まれ。小樽商科大学卒業、大阪大学大学院修士課程修了、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。大阪大学、京都大学教授、同志社大学特別客員教授を経て、現在、京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授。その間、仏、米、英、独の大学や研究所で研究と教育に携わり、経済企画庁、日本銀行、財務省、経済産業省などの研究所で客員研究員等を兼務。元・日本経済学会会長。専攻は労働経済学、公共経済学。
編著を含めて著書は日本語・英語で100冊以上。日本語・英語・仏語の論文多数。著書に、『格差社会』(岩波新書)、『女女格差』(東洋経済新報社)、『「幸せ」の経済学』(岩波書店)ほか。

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