「働く妻」が働けば働くほど不幸になる深刻理由 妻の幸せを左右する夫の家事貢献と会話密度
本論に入る前に、既婚女性に関して、就労、生活満足度(幸福度)をどう思っているのか、これまでわかっていることを簡単に知っておこう。これは、既婚女性が働いたときの生活満足度を考えるときに役立つであろう。
第1に、何割ほどの既婚女性が働いているかを確認しておこう。1980年代では夫は働くが妻は無業(すなわち専業主婦)の組み合わせが共働き夫婦の2倍弱もいたが、その比率は徐々に減少し、1995(平成7)年前後には同数となった。
その後共働き夫婦の数が増加し、逆に片働き夫婦の数が減少してその比率は逆転し、今は2倍弱になっている。すなわち現代では共働き夫婦が多数派で片働き夫婦は少数派であり、共働き夫婦の生活満足度(幸福度)を考察する価値は高い。
「働く妻」が増えた5つの理由
なぜ既婚女性の労働参加率が高くなったのか、ここでごく簡単に箇条書きにまとめて述べておこう。
(1)フェミニズム運動などの声もあって、妻が夫に従属しないためには、自分が働いて経済的に自立したいと思うようになった。
(2)女性の教育水準が高まったので、自分の資質を労働で生かしたい希望が強まった。
(3)サービス産業化の進行により、男性のような強い肉体を必要とせず、女性にふさわしい仕事の増加があった。
(4)1990年代に始まった長期の大不況により、賃金なり所得の下降が見られたので、家計所得の低下を補うべく、いくらかの所得でも稼ぎたいがために妻の働きたい意欲を高めた。
(5)大不況を乗り越えるべく企業は労働費用の削減策を採用したが、その一つの策がパートなどの非正規労働者の数を増やす案であり、それを望む既婚女性の数は多かったので、うまく需給が一致した。
第2に、結婚は、女性・男性を問わず生活満足度や幸福度を高める事実は多くの国で見られる現象であり、日本も例外ではない。しかし離婚を迎える夫婦もいるわけで、離婚は一時的に幸福度を低下させる。しかし時の経過とともに元の水準に戻る人がかなりいる。これは筆者と迫田さやか氏との共著『離婚の経済学』(近刊)に詳しい。
第3に、既婚女性の就業を決める重要な変数として、日本においては末子の年齢がある。末子の年齢が非常に若いとき(例えば3歳以下)には働かない確率が高い。これは日本と欧米諸国との比較をすれば一目瞭然であり、欧米ではあまり関係ない一方、幼児の存在が日本の既婚女性の労働に与える影響力は強いのである。
筆者と高松里江氏は、東京大学社会科学研究所の『働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査』のパネルデータを用いて分析を行った。パネルデータとは同一人物を数年間にわたって情報を収集したもので、データの信頼性では1年限りのデータよりも情報が豊富というメリットがあるが、分析手法はやや複雑になる。分析手法に関してはここでは論じない。
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