「魔法のような薬」デパスの減薬に立ち塞がる壁 一筋縄ではいかない常用量依存に苦しむ患者

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──では現在高齢で服用し続けている常用量依存の可能性のある人についてはどう考えるべきなのでしょう?

年齢を重ねてさまざまな弊害が出てくる可能性が高まることも事実ですが、デパス(エチゾラム)を服用しながら何のトラブルもなく人生を普通に送っている人もいます。それを若い医師が頑張って薬をやめさせようとしたら、これまでできたことができなくなったとかの事態も生じているのです。

今後は新規に出さないけれども、今飲んでトラブルが出てない人に関しては、もうとやかく言うのはやめようと、私自身は思い始めています。何か問題が生じたときにしっかり関わろうと思っています。実際、この薬は本当に止めづらいのです。

──どの程度止めづらいものなのでしょう?

薬物依存の治療の中で覚せい剤の治療はほとんど入院せずに外来診療できます。しかし、デパス(エチゾラム)のようなベンゾジアゼピン受容体作動薬依存の人は1~2カ月間の入院が必要になります。根気よく薬の量を少しずつ減らし、退院後も外来での治療を継続していきます。

高齢でデパス(エチゾラム)の常用量依存が疑われる人の場合ならば、何か大きな病気をして入院したり手術を受けたりのときはチャンスなんですよ。「ちょっといろいろあるし、麻酔もかけるからお薬整理しようね」と話してデパス(エチゾラム)を整理していくのです。

中には元気になって「また前の薬」って言う人もいますが、「もう歳もとったし実際飲まないで何日間もやれたじゃないですか」など話をして止めるという手法を使っている医師は少なくないと思います。

「治療を短期的な成果だけで考えてはいけない」

──そのほかにデパス(エチゾラム)を減らすアプローチは何かありますか?

実は内科などでデパス(エチゾラム)を出している医師の多くは、より効果が早い薬で症状を改善してあげたいという患者さん思いの優しい先生で、近所でも評判だったりすると思います。その意味ではデパス(エチゾラム)を服用している患者さんの話をもっと丁寧に聞いてあげるとか、本人が困っている問題に関心を持って毎回触れてあげて「頑張ってるね」とねぎらってあげるとかしたらどうでしょう。

患者全員が精神科の認知行動療法を必要としているわけではないのですが、患者さんはちゃんとわかってほしい、認められたいと思っていて、そういう場があれば、薬は減らせると私は思っているのです。ただ、そうなると診察時間が長くなります。たくさんの人が関わっていろんな形で多職種がアプローチすると本当に薬は減りますよ。

──私たち患者になりうる立場の人たちも薬への向き合い方が問われるのでしょうか?

私は新規の患者さんにデパス(エチゾラム)を処方することはありません。その理由はデパス(エチゾラム)がいい薬すぎるから。切れ味がよくて、患者さんの満足度が高い薬なのです。しかし、薬でこんなに楽になる体験をするのは、罪深い気がするのです。薬はいい部分もあるけど悪い部分もたくさんあります。

だから魔法のような薬で夢を見させてしまって、患者さんが薬に幻想を持つようにならないほうが、「しょせん薬はこんなもんですよ」という諦めを持ってもらったほうがいい気がします。同時に私たちは治療を短期的な成果だけで考えてはいけないのだろうと思います。薬を出してこの人はどのようにこの薬から卒業していくんだろうかというイメージを持って薬を出さなければいけない時代になってきていると思います。

(取材・執筆:村上 和巳/ジャーナリスト、浅井 文和/医学文筆家)

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2016年10月にメディア関係者と医療者の有志により発足。メディアとヘルスケア関係者(医療者・支援者・当事者など)の垣根を取り払い、医療健康情報のよりよい発信手法について学びあうことを目的に活動している。2018年に非営利型一般社団法人化。2019年6月、スローニュース社の支援のもと「調査報道チーム」を立ち上げ、村上和巳(ジャーナリスト)を編集長として医療健康分野における社会課題の発掘・議論喚起を目指す取り組みを開始した。

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