「魔法のような薬」デパスの減薬に立ち塞がる壁 一筋縄ではいかない常用量依存に苦しむ患者

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本連載第4回での証言のように高齢者の一部では、あえてデパス(エチゾラム)を減薬・中止はしない現実もある。ただ、デパス(エチゾラム)を含むベンゾジアゼピン受容体作動薬は、長年服用している高齢者では副作用とみられる症状の原因として有力視される種類の薬でもある。

2016年に大阪薬科大学教授の恩田光子氏らが在宅医療に取り組む薬局1890件での約5500人の患者で薬の副作用の状況を調査した結果、副作用の原因として疑われた薬の筆頭は、やはりベンゾジアゼピン受容体作動薬の多くが含まれる睡眠導入薬・抗不安薬の17.9%だった。

また、2005年にイギリス医師会雑誌に掲載された研究では、平均年齢60歳以上の高齢者で不眠症状に対してベンゾジアゼピン受容体作動薬を服用した人とプラセボ(薬効がない偽薬)を服用した人を比較した複数の臨床試験を分析し、プラセボの人に比べ、ベンゾジアゼピン受容体作動薬を服用している人では転倒の危険性が2.6倍、日中の疲れ(倦怠感)を感じることが3.8倍高いとわかった。さらに認知機能障害の危険性が4.6倍も高いとも報告された。

このようなことを鑑みれば、高齢者でも可能ならば、デパス(エチゾラム)のようなベンゾジアゼピン受容体作動薬の減薬・中止に取り組む意義は少なくないだろう。実際、高齢者施設の往診に同行して服薬指導や処方提案を行っている「みんなの薬局東中野駅前店」に勤務する薬剤師の杉本進悟氏は、デパス(エチゾラム)の減薬について次のように語る。

「デパス(エチゾラム)は適応症が多い薬なので、手始めは服用し始めた経緯を確認し、肩こりや腰痛などで服用し始めた場合は痛みの状態、不眠の場合は夜間の睡眠状態などをチェックします。服用開始に至った症状が落ち着いていれば、転倒などのリスクがあることを説明したうえで医師に中止を提案し、同意が得られればそのまま患者さんにも医師あるいは薬剤師から減薬・中止を提案します」

慎重に減薬を進める介護施設の事情

ただ、介護施設に居住する高齢者でのデパス(エチゾラム)の服用中止を提案する場合はそこで働くスタッフの事情などにも考慮が必要だと杉本氏は語る。

「例えば認知症が進行している高齢者で、睡眠導入薬としてデパス(エチゾラム)を服用している場合、もしその方が減薬で眠れなくなってしまうと、ほかの入所高齢者へのケアができない状況になってしまうこともあります。その場合は、減薬・中止の相談はしにくくなります。

ただ、そのような場合でも長期的に患者さんの様子を見ていくと、『最近は夜間眠れている』、『傾眠(薬の副作用である昼間のうたた寝)傾向がみられる」という状況変化が報告されることはしばしばあります。こうした報告があったときには、すかさず減量・頓服への変更・中止を提案するようにしています」

高齢者施設の往診に同行して服薬指導や処方提案を行う「みんなの薬局東中野駅前店」薬剤師・杉本進悟氏(著者撮影)

デパス(エチゾラム)の服用原因となった症状が落ち着いていて、患者の同意が得られた際の減薬・中止手順は、痛みや不安症状で朝昼夕の毎食後に合計1日3回服用している場合は、まずは朝夕の食後のみに減量し、その後は朝の食後のみ、最終的に中止と徐々に行うことが多いという。

また、就寝前の睡眠導入薬として頓服となっていてなおかつ睡眠状態に問題ない場合は、患者本人が不眠症の自覚を持って服用しているかどうかで対応を変える。

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