「無痛分娩」には一体どれだけの危険が伴うのか

その産科が麻酔をしっかりとやれるかが焦点だ

「どう、気分悪くなってない?」帝王切開を終えたばかりの母親に話しかける照井克生さん。日本における産科麻酔の第一人者だ(筆者撮影)

「痛みがなければ母親になれないなんておかしい」という考えが浸透し、硬膜外麻酔による無痛分娩の希望者が増えている。

一方、2016年には日本産婦人科医会の妊産婦死亡症例検討評価委員会(厚生労働科学研究費補助金)が、麻酔が直接的な死因となった事例があったことを報告。2017年は無痛分娩をした女性が死亡したり重い障害を負ったりしたケースが相次いで報じられ、刑事訴訟も起きた。厚生労働省は研究班を組織して2018年に安全対策をまとめ、2020年春で2年になる。

今、日本の無痛分娩は安全になったのだろうか?

日本ではまだなじみが薄いが、麻酔科医の世界には帝王切開、無痛分娩、胎児・新生児などの麻酔に特化した「産科麻酔」という専門ジャンルがある。産科医が麻酔を行う施設が多い日本と違い、海外では麻酔は麻酔科医がかけるのが普通で、専門分化も進んでいる。2000年以降、日本にも産科麻酔の研修コースを持つ大学病院が登場し、これまでに数百名の医師が巣立って全国で活躍中だ。麻酔のよさも怖さも知り尽くした医師たちの目に、現状はどのように映っているのか。

2000年に、日本初の産科麻酔部門を立ち上げた照井克生さん(埼玉医科大学総合医療センター産科麻酔科診療部長・教授)は、生まれてきたときから、出産の安全性を高める役割を背負っていたのかもしれない。母親が難産で、いわゆる「胎児仮死」の状態で生まれてきた。

幸い、赤ちゃんを逆さづりにしてピシピシたたくという昔ながらの蘇生法が成功した。しかし、肝を冷やしたお母さんは、「お産というものは、本当に大変なことなんだよ」といつも話しながら息子を育てた。

産科には緊急帝王切開手術がけっこうある

照井さんは成長して医師となり、若き日にアメリカのハーバード・メディカル・スクールに留学したが、教育病院で、産科病棟の体制を見て目を見張った。その産科病棟には、他科の手術に行ってしまうことはない産科専属の麻酔科医が複数名24時間体制で常駐していた。

「産科には『超』のつく緊急帝王切開手術がけっこうあるんですよ。その時、麻酔科医がいれば産科の先生は手術に専念できますよね」と照井さん。

麻酔科は、麻酔をかけるだけではなく、救命救急センターに詰めている救急科のように、心拍や呼吸を監視し、すみやかに人工呼吸や輸血を開始することに長けた科でもある。手術室で、自力呼吸ができない全身麻酔を受けている人や、大量に出血している人の全身管理を日ごろから担当しているからだ。実際、大量出血は日本では母体死亡理由の代表だが、アメリカではそうではなかった。

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