「無痛分娩」には一体どれだけの危険が伴うのか その産科が麻酔をしっかりとやれるかが焦点だ

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もし針が硬膜を破り、それに密着したクモ膜も破いてしまったらどうなるのか。

その場合は、麻酔薬が脊髄に直接触れるので薬が10倍くらい強力に効いてしまう。投与量が多いと脳と全身との信号のやり取りが全面的に遮断された「全脊髄くも膜下麻酔」となり、呼吸も心臓も停止する。そこで人工呼吸ができなければ妊婦が亡くなってしまう。

「だからこそ、薬を少し入れては様子を見る『少量分割注入』は絶対に欠かせないのです。少しの量なら、くも膜下に入っても症状は軽くてすみます。ところが、この『少量分割注入』が、事故が報道されたあるクリニックでは行われていませんでした」

劇薬・麻薬を扱うことが多い麻酔科医は、事故の防止法やトラブルシューティングをいくつもたたき込まれるが、硬膜外麻酔で最も重要な安全対策は少量分割注入だと照井さんは言い続けてきた。それをしない施設が硬膜外無痛分娩を行っていたという事実は、照井さんにとって衝撃的なことだった。

「誤操作は、必ず起きます」

「誤操作は、必ず起きます」

照井さんは強調する。

「それを前提に行動しなければならないのです。ベテランでも、針が本当に正しい所に入ったかどうかは、実際に麻酔薬を入れてみなければわかりません。『私はうまいし、たくさんやっているから間違わない』という自信が、いちばん怖いものなのです」

照井さんは無痛分娩の普及を願ってきたが、打って変わって、今は慎重だ。

「知らないうちに無痛分娩の人気が盛り上がってしまいました。十分な麻酔研修を受けたのちに、長年にわたり硬膜外無痛分娩を事故なく行っている産科医もいらっしゃいますが、こんなにたくさんの産院が新規に硬膜外無痛分娩を開始していたことは驚きです」

無痛分娩の国内の実施率は、2008年の調査では2.6%にとどまっていた。しかし、事故報道の後に日本産婦人科医会が急きょ実施した調査では6.1%と約3倍になっていた(2016年)。しかも、常勤麻酔科医がいることはまれな診療所のほうが実施率は高かった。

麻酔科医が少ないという現実もある。全国的に見ると、無痛分娩の人気は、産科医を支える麻酔科医を増やすというより、むしろ産科医が自分で麻酔を行う機会を増やした。

厚労省の研究班は、2018年、「無痛分娩の安全な提供体制の構築に関する提言」を発表して、無痛分娩実施施設に求めることを示した。

そこでは、硬膜外痛分娩を産科医が行うなら「100例程度の経験を有することが望ましい」など一定の基準を満たすことや、麻酔科医から急変時の対応を教わる講習会に参加すべきとされた。麻酔科医が急変時に使用する医療機器や医薬品も、準備すべき物品として示された。

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