当たり前に「賄賂」があるカザフスタンの暮らし ソ連崩壊から30年弱、何でも金で買える社会

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ただ、ソチ五輪のフィギュアスケート銅メダリスト、デニス・テンが白昼、街の中心部で強盗に刺殺されたとき、若者を中心として内務省の改革を求める動きがあった。そこには、腐敗した警察を黙認してきた自分たちも悪いのだという自責の念がありました。

──政府に変える気はない?

ジョージアでサーカシビリ大統領のとき、警察の人員を入れ替えるくらいのことをして、待遇を改善する代わりに収賄を絶対に許さないという態度で臨み、贈収賄を減らしたという話はあります。政治的な強い意志があればできる。裏を返せば、それがないとできないということです。

「格差拡大」への怒りが大きくなっている

──手続きの時間短縮が要因の1つなら、非効率を排除すべきでは。

『<賄賂>のある暮らし 市場経済化後のカザフスタン』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトへジャンプします)

もちろん政府にはそういう発想はあります。住民サービスをワンストップで提供できるセンターを作り、効率を高めて賄賂の機会を減らす、オンラインなら役人が介在しないので行政手続きを電子化する。ただ、どんなに立派なシステムを作っても動かすのは人間なので不正は排除できません。

──「賄賂のある暮らし」しか知らない世代が増えています。

7歳の娘の成績がオール5に1科目届かなかったことを残念に思った母が先生に掛け合ったら、「来年度は頑張る」ことを条件にオール5になった。それを聞いた娘が「ママ、お金払ったの?」。価値観が変わっています。ソ連時代を知る人が持っていた贈収賄への後ろめたさを若い人は持っていません。

──「何でも買える社会は何でも買わなきゃいけない社会」と書いていますが、続くのでしょうか。

相手の払った賄賂のほうが多ければ裁判に負ける、賄賂を払わないと公費負担の手術を拒否される。このように支払う金の多寡で物事が決まる社会では経済的弱者ほど割を食い、格差が広がります。

今のシステムは便利な面もあり、ある程度しょうがないと思っている人々も、ソ連時代に比べ住居、教育、医療などの公的コストが増え、国は豊かなのにまともな暮らしができないことに腹を立てている。腐敗への怒りよりも、格差の拡大を放置する国の社会保障政策などに対する怒りのほうが大きいかもしれません。大臣の「身の丈発言」があった日本も対岸の火事ではないでしょう。

(聞き手 筒井幹雄)

週刊東洋経済編集部
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