会社員が消えた後に「お互い様」で生き残る方法 「多動力」ではなく「他動力」の時代になる?

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ここには、宗教観も絡む。「天は悪事を知っている」というある種の倫理観や死後の世界を信じる感覚。稲場氏はこれを「無自覚の宗教性」と呼び、災害時に助け合う互恵の精神も、そこに関わりがあるという。

利他性を地球環境問題に生かすには

ただ、「つながり」や「絆」と言えば、ディープな人間関係に縛り付けられる意識が日本ではまだまだ強く、煩わしく感じる人も多い。小川氏や大内氏も苦手意識があるといい、これを軽減し、新たな関係性を作るカギはネットの活用にあると期待している。

「ICTの発達というものが、これまでの濃厚な人間関係、付き合わざるをえないという問題を解決するんじゃないか。もっと言うと、ICTを使うと身体障害者の方も働きやすくなるし、ワーク・ライフ・バランスの実現もしやすくなる。これまでわれわれが抱えていた問題を解決しうるような。ちょっといいところばかり言いすぎかもしれませんが……」(大内氏)

では、こうしたコミュニティーや個々の人間関係レベルの課題解決手法を、地球規模の、例えば温暖化対策につなげられるか。まだ存在しない将来の人類に対して、私たちは利他性を発揮できるだろうか。それには何らかの仕掛けが必要だと、論者たちは言う。

「最近は環境問題や社会貢献を掲げる企業もあるが、本気でやろうというところは少なく、今の資本主義のロジックで真正面から取り組むのは難しい。先日のグレタさんの国連スピーチでも、共感する人たちがいる一方、『非科学的だ』『洗脳されている』という批判も多かった。環境問題に取り組んだら得をするというロジックと回路が見いだせないと、世界的な互恵システムにはならない。異議申し立てするのは、やはり市民社会の動きじゃないか」(稲場氏)

「株式会社であれば、株主の行動で変えることも可能ではある。社会的責任投資というのがあるが、市民がファンドを作って会社の株を買う。そうすると、環境問題に取り組まない会社は、経済活動的に弱くなっていく。もしかしたら、そういう会社は上場を廃止していくかもしれないが……」(大内氏)

「それをもっと罰則型にすると、中国のように巨大信用システムみたいなものを作って、環境に悪いことをしたらポイントが下がるようにするとか。ポイントがないと取引ができない、お金も稼げない、優待メンバーにもなれない、やばいみたいな感じになれば、『こういう企業に投資しよう』じゃなく、『ポイントが低い企業には投資しない』みたいな発想になるかも……。私はちょっと嫌ですけどね」(小川氏)

「ただ、そういう政府や企業が支持されるには、そのための環境教育をしていく必要がある。環境が大事だと考える株主を増やすにも、所得インセンティブより、環境のほうが重要なんだという考えをみんなが持たない限りは難しい。本心からそう思っていなくても、そうしたほうが格好いいとか、そちらへ誘導する何らかの理由を作っていかないと」(大竹氏)

「役に立つ学問とは何か」を討議した前回と同様、明確な答えの出る論題ではない。

2時間に及んだ議論を締めくくる一言も、「閉塞感や生きづらさに追い込むのではなく、基本的には楽観主義で、解決できるという教育が重要」(稲場氏)、「AI時代への対応では日本は周回遅れで、このままでは後退するしかない」(大内氏)、「大きな変化が起きても、そこそこちゃんと立て直すことはできるんじゃないかと、いろんなものがない世界で暮らす人類学者としては思う」(小川氏)と、バラバラだった。

だが、「これまでのような価値観や生き方では、社会は継続できない。1人ひとりが意識を変えることが迫られている」という認識だけは共通していた。

松本 創 ノンフィクションライター

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まつもと はじむ / Hajimu Matsumoto

1970年、大阪府生まれ。神戸新聞記者を経て、現在はフリーランスのライター。関西を拠点に、政治・行政、都市や文化などをテーマに取材し、人物ルポやインタビュー、コラムなどを執筆している。著書に「第41回講談社本田靖春ノンフィクション賞」を受賞した『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』(東洋経済新報社、のちに新潮文庫)をはじめ、『誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走』(140B、2016年度日本ジャーナリスト会議賞受賞)、『ふたつの震災――[1・17]の神戸から[3・11]の東北へ』(西岡研介との共著、講談社)、『地方メディアの逆襲』(ちくま新書)などがある。

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