福知山線脱線事故「遺族と元社長」13年の闘い JR西日本を変えた2人の技術屋の出会い
官僚組織の壁に挑んだ遺族の交渉力
『軌道』の主人公である淺野弥三一氏は、38年連れ添った妻と実の妹を事故で奪われ、次女が瀕死の重傷を負わされた。最愛の人を失った悲痛と絶望から、事故直後は「感情が断ち切られ、自分が生きているのか死んでいるのかすらわからない『空』の状態」に苦悶するが、やがて「遺族の社会的責務」を自らに課し、遺族たちの会「4.25ネットワーク」の世話人として、JR西追及の先頭に立っていく。
「100%当社の責任」「誠心誠意対応する」と口では言いながら、冷淡で傲慢な態度に終始する同社は、民営化から18年経ていたとはいえ、無謬(むびゅう)主義に支配され、何よりも組織防衛を優先する官僚組織そのものだった。
発足5年目に起きた1991年の信楽高原鐡道事故(死者42人、負傷者628人を出した列車同士の正面衝突)から被害者支援に当たってきた弁護士は、その印象をこう語った。「非常に硬直した、官僚主義の、表面上の言葉とは裏腹に、本質的な部分では自分たちの責任や誤りを決して認めず、絶対に譲歩しない。そんな組織でしたね」。
そんなJR西に対し、淺野氏は「まず事故を引き起こした自社の組織的・構造的要因を明らかにし、遺族・被害者に説明すること」を求めた。そのうえで、「日勤教育」に代表される懲罰的な社員管理や精神論的な安全教育から脱し、具体的で実効性ある安全体制を構築することが必須だと主張した。
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