福知山線脱線事故「遺族と元社長」13年の闘い JR西日本を変えた2人の技術屋の出会い

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組織改革の途上で退場を余儀なくされた山崎氏は、その退任会見で、「(井手氏とは)基本的に縁を切る」と、JR西グループと「天皇」との決別を宣言した。出戻りの技術屋社長が最後にあらためて示し、後進に託した改革への決意表明だった。

山崎氏はその後、社長在任時の不祥事(事故調委員に接触し、事故調査の情報を事前に得ていた情報漏洩問題)が発覚して大きな批判を浴びたが、淺野氏の信頼は揺るがなかった。

「彼の行為自体は軽率で稚拙だが、子会社から突然呼び戻された落下傘社長ゆえの心境は理解できなくもない。孤独と焦りから独り相撲を取ってしまったということでしょう」

鉄道本部長時代の過失が問われた山崎氏の裁判は2012年1月に無罪が確定し、現在彼は、同社が設立した安全研究所の技術顧問を務めている。

福知山線事故後に始まったJR西の安全への取り組みは、昨年12月の新幹線重大インシデントに見られたとおり、まだ浸透しきってはおらず、この先も予断は許さない。だが、安全投資、組織づくり、リスクやミスを報告する文化の奨励など、変わろうとする姿勢は確実に生まれている。輸送障害の減少ペースも、JR他社と比べて早い。その発端に、2人の技術屋の出会いと共鳴があったことは、あらためて強調しておきたい。

組織文化の変革は一朝一夕ではいかない

私が取材したJR西の幹部の一人は、事故後、名著『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(中公文庫)を何度も読み返したという。その一節を『軌道』のエピグラフに引いた。

「組織が新たな環境変化に直面したときに最も困難な課題は、これまでに蓄積してきた組織文化をいかにして変革するかということである。組織文化は、組織の戦略とその行動を根底から規定しているからである」

組織文化の変革は一朝一夕ではいかない。たとえ、犠牲者が100人を超す巨大事故を起こした企業であってもだ。その長い道程を、私たちは厳しい目で見守っていくしかない。

淺野氏は25日、尼崎市内での追悼慰霊式に出席した後、午後1時半から「追悼と安全のつどい」を開く(入場無料。会場は「あましんアルカイックホール オクト」)。遺族とJR西関係者、安全問題の専門家たちが討論を行うことになっている。その案内状にこうある。

「今年は福知山線事故から13年。改めてあの惨事の検証過程と到達点を共有しつつ、今後の鉄道事業の在り方と安全への認識を一層深化させ、社会化していくために」

松本 創 ノンフィクションライター

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まつもと はじむ / Hajimu Matsumoto

1970年、大阪府生まれ。神戸新聞記者を経て、現在はフリーランスのライター。関西を拠点に、政治・行政、都市や文化などをテーマに取材し、人物ルポやインタビュー、コラムなどを執筆している。著書に「第41回講談社本田靖春ノンフィクション賞」を受賞した『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』(東洋経済新報社、のちに新潮文庫)をはじめ、『誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走』(140B、2016年度日本ジャーナリスト会議賞受賞)、『ふたつの震災――[1・17]の神戸から[3・11]の東北へ』(西岡研介との共著、講談社)、『地方メディアの逆襲』(ちくま新書)などがある。

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