会社員が消えた後に「お互い様」で生き残る方法 「多動力」ではなく「他動力」の時代になる?
自営業中心の社会であるタンザニアでは、必ずしも「雇用されたい」という欲求は強くなく、また自営業者として「プロフェッショナルを極める」といった発想も普遍的ではない、と小川氏は言う。
「基本的に嫌なことはしない、嫌だったら次へ行く。その代わり、ちょっとずつできるものを増やしておく。堀江貴文さんの『多動力』という本があったが、タンザニアの人たちは“他動力”。自分の周りに外付けハードがいっぱいいる感じ。だから人を助け、親切にして、仲間をどんどん増やす。見返りを求めず、とりあえずみんなに親切にしておいて、そのうちの何人かが助けてくれたらラッキーというような感覚。利他的じゃないと生きていけない」
自営労働者をどう支援し、新たな共同体をどう築くか
とはいえ、いきなり社会は変わらない。自営の時代に移行するにしても、そこへいくまでに代わりの何かが必要ではないかと大竹氏は問う。
「例えば、最近の芸能界の話でも(芸人やタレントは)独占的な契約を結ばれて弱い立場になっている。クラウドワークにしても、大きなプラットフォームの会社があり、個々の賃金は結局、雇用者側が決めて、従属労働に近い状況になっている。従来の労働法の枠組みでは難しいとしても、取引や競争の公正を守る仕組みが必要だろう」
大内氏もこれに同意する。「自営労働者が資本主義に取り込まれ、グローバルな市場に組み込まれてしまうと、ただ単に実力主義だと突き放すのではなく、やはりサポートが必要になる。自営業者が共助のために労働組合的なものを作るのはカルテルになるというが、本当にそうだろうかという疑問もある。ただ、これをどうやって実現するかは、新しい労働法という観点より、もっと広い観点から公正な資本主義での取引秩序を考えないといけない」。
また、新たな共同体やつながりの構築も難しい課題だ。稲場氏が研究対象とする宗教共同体をはじめ、地域社会でも会社組織でも、日本のソーシャル・キャピタルは「ボンディング型(同質的で閉鎖的な強い結び付き)」が圧倒的に強い。これをどうやって「ブリッジング型(異質な人や集団間の緩やかで横断的な結び付き)」に変えていくか。そもそも、そういうことは可能なのか。大竹氏の問いに、稲場氏はこう答える。
「現代は移動性の高い社会になり、生まれ育った地域で一生過ごすのは少数派。お寺や神社、地縁ネットワークも変容を強いられ、災害時に自分のところの檀家や氏子だけを受け入れるということはありえない。たまたま地域のお寺に避難した人たちが協力して避難生活を始め、そこから新たなつながりが生まれるというのが今、日本社会で起きていること。従来のボンディング型ソーシャル・キャピタルとは違う形が生まれる可能性は感じている」
タンザニアの社会のように緩くつながる共同体が成立するには、周りの人に対する信頼が大事だと、大竹氏は行動経済学者の視点から指摘する。
「利他的な行動をしていたら、いつか報われるという信念がないと駄目で、それが形成されないところだと、もともと利他的な人であっても、利他的な行動はできない」
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