過労死ラインを超える「共働き育児」のリアル 職場でも家庭でも働きつづける親たちの疲弊

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夫に連絡をし、子どもたちの明日の予定を考えながらキッチンに戻ってヤカンを確認すると、今朝沸かしたはずの麦茶は真水だった。注ぎ口から出てくる透明な液体を見て一瞬固まりながら、そういえば今朝夫がお茶を沸かそうとしているときに、トイレット・トレーニング中の下の子が手洗いから彼を呼び、彼はその対応に追われていたことを思い出す。

そうか、だから夫はティーバッグを入れないまま、入れたつもりで沸騰だけさせてしまったのだろう。気持ちはわかる。わかるし、仕方ない。だが、明日は子どもたち2人ともに必ず水筒を持たせねばならない日。冷蔵庫に冷えた麦茶は、残り少ない。

軽いいら立ちと落胆を覚えつつ、麦茶を沸かし直す。今から沸かしても明朝までに冷えないかもしれないから、念のため、冷たいお茶のペットボトルも買ってきてもらおう。再び夫に連絡する。

職場でも家庭でも、働き続ける

帰宅した夫と子どもたちが入浴している間に、Aさんは食器洗浄機をセットし、洗濯物を仕分け、保育園の行事予定表を確認する。夕食までの時間に子どもたちが引っ張り出してきたおもちゃを軽く片付け、ホッとしようかと思ったそのとき、入浴を済ませた子どもたちが出てきたので、体にローションを塗ったり髪を乾かしたりする作業に移る。

その作業だが、下の子が「これじゃない、あっちがいい」と言って、Aさんがあらかじめ用意したパジャマを着るのを拒み、仕方がないので希望のパジャマを取りに行っている隙に、今しがた片付けたばかりのおもちゃをまた引っ張り出そうとするのをいさめたり制止したりしながら進めなくてはならない。

そして、そうやって着せたパジャマも、就寝前の歯磨きで前面が濡れてしまい、結局もとのパジャマを着せるほかなくなり、そのことが気に入らない小さな人は大泣きする。「泣きたいのは母です」と思っていると、夫がうまい具合に気をそらせて機嫌を直してくれた。

平日、Aさんは持ち帰った仕事の資料とスキルアップのための専門書が気になり、それらに目を通したい思いを抱えつつ、結局その夜読んだのは上の子の宿題に関わる参考書や保護者向けの解説書と、下の子が読んでとせがんだ数冊の絵本であった。

セカンド・シフトに疲れて能率が上がらないため、Aさんは目覚ましを明朝4時にセットして眠りについた。明け方、家族が起きてくるまでの2、3時間が、彼女の「残業」タイムである。全自動洗濯機とお掃除ロボットのスイッチを入れ、目覚めのコーヒーを淹れて、昨晩持ち帰った仕事をする。この「残業」はタイムカードには表示されない。

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