16歳男子高校生が「種」を売る何とも壮大な理由 わずか15歳で種苗会社を立ち上げた

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ただ、在来作物の中には、気候と土壌が変われば特徴ある形や味を失うものがある。例えば大阪の天王寺蕪は、江戸時代に長野の野沢温泉村の健命寺住職が種を持ち帰って育てたところ、茎葉ばかりが成長して野沢菜となった。

全国区で種を流通させれば、特徴を維持できないのではと問うと、「守ることは種苗会社や熟練の種採りの方がやってくださっている。僕は新しい伝統野菜を作ることも大事だと思います。いろいろな地域で新しい野菜が生まれれば非常に面白いですし、町おこしにつながるかもしれない」と明快に答えてくれた。

種の保存は、地域の食文化や歴史を守ること

種を守ることで野菜や穀物の多様性を守ることは、地域の食文化を守ることであり、受け継がれてきた歴史を守ることでもある。同時に、食料危機を防ぐためでもある。気象変動のため、当たり前に食べてきたものが食べられなくなるかもしれない、と考えればこれが誰にとっても切実な問題であることがわかる。

しかし、小林氏のように若い世代が新しい発想で、種を守る活動に参画していけば、野菜の未来は変わるかもしれない。

平成の30年間に、インターネットの普及で、情報収集や情報交換の手段は多様になった。グローバリゼーションの進行で、社会の構造も大きく変化した。今、世の中は新しい発想、新しい才能を必要としている。年齢や経歴に関係なく、未来を築こうとする人を助けたい、と望む人たちもたくさんいる。

利益を上げることは大切だが、それ以外にも大切なことがあると考える若い世代が登場してきたのは、社会が成熟した証しと言える。さまざまな問題は山積しているが、案外私たちの未来は明るいかもしれない。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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