16歳男子高校生が「種」を売る何とも壮大な理由 わずか15歳で種苗会社を立ち上げた

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あるとき、ホームセンターの種売り場に、苗では売られていない野菜の種がたくさんあることに気づく。野菜や種についてもっと知りたい、と東京・神田神保町で古書を探し、専門的な本を集める農文協・農業書センターにも通い始める。

中学生になると、インターネットでも自分が知らない種がたくさんあることを知り、もっと集めたいと思うようになる。たくさんある種の中に、在来野菜のものもあった。それらの種は、栽培されている地域の種苗店へ行かなければ手に入れることができない。そこで、家族で父親の出身地の長野県や、父方の祖父が住む新潟県へ帰省するたびに、近辺の種苗店を回るようになった。長野県や新潟県には種苗店がたくさんあった。

種苗店が廃業している実態を知る

中学生になると、両親から「関東の日帰り圏内なら、1人で行っていいよ」と言われ、関東の種苗店を回るようになった。高校生になると、「泊まりで行ってもいいよ」と言われる。夏休みなどの長期休暇に1週間ほどかけ、素泊まりできる民宿や、バックパッカーが泊まる宿などに泊まる旅をしている。

小林氏は民宿で、地元の食材を使った料理などを教えてもらうという。「種から育てたものを、その地域の食文化の中でどう食べるのか知ることも大事。自分で種を採る農家の人たちは、自分の好みの味にしようと思って種を選んで育てるので、その地域でどういう味がおいしいと思われているのか、体感しておきたい」と小林氏は説明する。

各地を回るうちに、種苗店がどんどん廃業していることに気づいた。「日本種苗協会という業界団体から脱会する人が多いのです」と小林氏が言うので、協会のウェブサイトを調べたところ、2018年度には27人も脱会していた。

「次に、お店にある資料を見て、『この種ありますか?』と聞くと、『その種を採っている人が亡くなっちゃったから、扱えないわ』と言われることが、行く先々であるんです」と小林氏。実情を知るにつけ、種を守らなければという思いが募る。

2018年、高校合格が決まってすぐに会社を起こしたのは、在来作物の種を全国区で流通させることが、「日本全体で種をコレクションするのと同じ」と考えたからだ。「地域を超えて種の需要を生み出し、全国規模で流通させることで保存していく」ことを社是としている。

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