『金融危機後の世界』を書いたジャック・アタリ氏(経済学者・思想家・作家)に聞く
欧州のユーロの例はとても興味深い。欧州においては、一つのツールを使った。それはバスケット方式だ。多くの欧州の重要通貨を徐々にバスケットに入れた形にして、ある程度の幅をもたせて変動させる。そして、欧州中央銀行が介入をし、変動をコントロールする。結果としては15年かけて、それらの通貨をユーロに融合することができた。
各国が保護主義的な戦いや競争的な切り下げに向かわないためには、つまり世界貿易を破綻させないためには、欧州と同じような形の通貨制度を世界的につくっていくべきだ。
具体的にどうするか。欧州通貨制度をつくったときのように、バスケット方式をとる。安定化させる通貨を決め、ユーロ、ドル、中国の元、それに日本円を入れてはどうか。それらのレートを安定的にする。これこそ重要な課題と考えている。世界経済が大不況に陥らないためには、この仕組みがぜひとも必要だ。
--鳩山首相は「アジア共通通貨」を提案しています。
導入するなら、欧州通貨制度の歴史と現状を細かい点まで研究し見習うべきだ。欧州は単一通貨制度に至るまでに、徐々に各国の競争力のレベルを調和化させた。経済理論においては、あまりに競争力が違えば、共通通貨にしても、資本や人口の大規模な移動に見舞われる。そうしたことはアメリカの中で起きた。19世紀の終わりにドルを統一したときだ。多数の人々が生産性の高いところへと移っていった。
アジアの国の中で、たとえば中国、韓国、日本では生産性が違う。そうなると、それを補う仕組みをつくらなければ、単一通貨制度を導入することはできない。似通ったレベルの競争力になるべく努力する。
そのうえで、徐々に国境を開いていく。そして、国際的な競争をして、そこで初めて生産性の調和化の条件が整う。日本の場合は、有効に使われていない人材を別の方向に向ける制度をつくる必要がある。