デジタル時代の新指標「GDP+i」が示す豊かさ デジタル化の進展で拡大した消費者余剰
デジタル公共サービスは生活者の利便性向上だけでなく、企業の生産性向上にも十分資する可能性がある。経済協力開発機構(OECD)は世界主要国について、電子政府の発展度と労働生産性の関係を図示しているが、デンマークをはじめとした北欧諸国は両方の数値が平均よりもかなり高い。
対する日本は電子政府の発展度は平均以上だが、労働生産性は平均以下である。日本でも今後マイナポータルを活用したスマート公共サービスによって、従業員の社会保険・税手続き等が自動化されるようになれば、その分の人員資源を有効に活用することができるなど、企業の生産性向上にも貢献することが期待できる。
デジタル資本主義では「顧客起点経営」に
最後に視点を企業に移し、急速に進むデジタル化のなかで企業がとるべき道筋について考えてみよう。18世紀の産業革命以降に起こった産業資本主義に対して、21世紀から本格化しつつあるデジタル革命は、「デジタル資本主義」とでも呼べる新たな資本主義体制を生み出していると、われわれ研究チームは考えている。
デジタル資本主義では日々産み出される膨大なデジタルデータが利潤の源泉になる。顧客の嗜好や特性に関する情報を明示的・暗示的に入手し、それぞれの顧客にあった最適なサービスが提供される。
サブスクリプション型のビジネスを支援するソフトを提供しているズオラ社のCEOであるティエン・ツォは、「アマゾンとウォルマートの違いは、ネットかリアルかの違いではなく、顧客から発想するビジネスか、商品から発想するビジネスかの違いである」と述べている。この違いはデジタル資本主義と産業資本主義の違いといってもよい。
商品から発想する産業資本主義では、顧客を「マス」、つまり同質的な塊とみなして同じ商品を販売する。顧客をいくつかのセグメントに分類して、それぞれに異なる商品をアピールするのも、同一セグメントに入る人々を同質だとみている点で、基本的には商品起点の発想である。
他方、デジタル資本主義では、顧客ごとの嗜好や特性に関するデータが豊富に入手できることから、顧客がひとりひとり異なる存在であることを前提にビジネスがはじまり、そこから徐々に共通点が見えてくる。言い換えると、各顧客を「エリート」として特別扱いするかのようなサービス提供を行う。これこそが真の意味での「顧客起点」の経営であり、日本企業のなかにもそのような事業転換の事例が出始めている。
顧客起点経営のもとでは、国全体の新指標として紹介した「GDP+i」のように「利益+i」、つまり横軸の利益だけでなく、顧客の精神的充足度をいかに高めるか(満たすか)という縦軸の意識がこれまで以上に重要になる。さらにいえば、DCIが示すように、自社の製品・サービスを通じて顧客の「潜在能力(ケイパビリティ)」をどう高めるのか、という視点もこれまで以上に重要となるだろう。
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