「恋愛=幸せ」とは違う価値観が愛される理由 マンガ「裸一貫!つづ井さん」が描く幸せ
一人暮らしをする20代女子の、ささやかな日常をつづったマンガシリーズが、累計38万部という大ヒットになっている。その作品は「CREA Web」で連載中の「つづ井さん」シリーズ。これまでに『腐女子のつづ井さん』3巻があり、9月11日には新シリーズ『裸一貫!つづ井さん』が発売。早くも3刷となっている。
「腐女子」というタイトルからわかるように、著者で主人公のつづ井さんは、オタクである。ボーイズ・ラブ(BL)ものを中心に、マンガやアニメが大好きで、恋しく思う登場人物ができることもある。
「自虐をしない」と決めた
そんな彼女の周りには、同好の仲間がいて、つづ井さんは一緒に休日を過ごしたり、お泊まり会や旅行をしたりする。家族や職場の人たちには隠しているオタクとしての自分を、仲間の前では思い切り出せる。お互いを大切に思っていることが、伝わってくる作品だ。しかし、大きな事件や恋愛要素はない。地味な日常を描くマンガが、なぜそれほど高い支持を集めるのだろうか? その理由を本稿では考えてみたい。
多くの読者を引きつける理由は、3つ考えられる。順に考えていこう。
1つは、つづ井さんが描く日常が、20代の独身女性のものだという点。『腐女子~』シリーズに出てくるつづ井さんは、恋愛していないオタクの自分を、引け目に感じている。
憧れを意味する「推し」のキャラクターにときめいていると、姉から恋をしていると決めつけられる。架空の彼氏とのクリスマスデート、という妄想がいかにリアルかを仲間と競い合う。仲間以外の友人や職場の同僚には、オタクだとバレないよう、言葉に気をつける。そんな自分を偽る日々に、彼女は疲れてしまったらしい。
『裸一貫~』シリーズでつづ井さんは、「自虐をしない」と決めた。作品は、オタクであり、仲間と遊び、「推し」にときめく日常をポジティブに描く。その理由をつづ井氏は、SNSのnoteで率直に綴っている。
その記事によると、心境が変化したのはストレスから円形脱毛症になってしまったから。「『未婚で』『パートナーがおらず』『恋愛経験が極端に少ない』『女性』であることに関して自虐をする」傾向があったと明かしている。
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