医者を僻地に縛る「地域別入試」の不都合な真実 奨学金返そうとしても医療界の圧力がかかる
近年、裏口入学や女子受験生や多浪人生への差別などが明らかになったが、どの大学でも医学部の人気は高まる一方だ。専門課程を進んだ者にしか資格が与えられず、収入も高い。「医者にしておけば食いっぱぐれはなく一生安泰」と考える親が少なくないからだろう。
医学部を持つ大学は国公私立合わせて全国約80校。医学部ブームを背景に難易度が上がっており、最低でも偏差値は60近く必要だ。ただでさえ難関の医学部入試を突破しようと、医師にする(なる)レースはすでに中学段階から始まっている。そんな親から相談を受けることは少なくないが、
「医学部志望の息子に、地域枠入試を勧めていいでしょうか」
という、ある受験生の親からの相談に対しては、私は個人的意見と断ったうえで「地域枠はやめておいたほうがいい」と助言した。
地域枠入試の危険性
地域枠入試とは、医師不足や診療科の偏在が問題となっている地域で、将来、地元の医療を支えてくれる受験生のために行われる医学部特有の入学試験だ。厚生労働省が導入したもので、医師不足の解消、地元占有率の向上、奨学金・修学資金の貸与による一般家庭からの進学者の増加などをメリットとして挙げている。
厚労省は、この制度を強力に推し進めており、2018年の医療法改正では、都道府県の権限を強化し、医学部入学定員に地元出身者枠を設けるよう大学に要請できるようにした。
地域枠の募集定員は、2008年度には33大学で403人だったが、2017年度には全都道府県に広がり、全医学部定員の18%に当たる1674人となった。
厚労省は美辞麗句を並べるが、地域枠入試には大きな問題がある。
地域枠入試の合格者には自治体から奨学金が給付される。9年間、行政が指示する医療機関で働けば、返還義務がなくなる。一方、これは基本的には貸与であり、逆に行政の指示する医療機関で働かなければ利子を乗せて返還する義務が生じる。
地域枠入試の説明書には、貸与された金を返せば、地域勤務に従事しないでいいと記載されているため、一部の医師は離脱する。厚労省の2017年度の調査によれば、地域枠の医師は卒業後4年目の時点で約10%が離脱していた。
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