中野:「母親が3歳までは家で見るほうがよい」とする3歳児神話は「神話」であるということはずいぶん前から指摘されていますが、いまだにそのような考えも根強いですね。保育園を気軽に利用できる「お試し券」が必要とも提案されています。まずは待機児童が解消される必要がありますが……。
周:データを見ると待機児童自体は最近かなり改善されてきています。ただ、保育園書類の提出のハードルが高いですよね。待機児童の多いところでは、入園の点数を上げる戦略もたてないといけない。
中野:あの書類は見ただけで出すのが嫌になるし、ある種のリテラシーやよほどの意欲がないと埋めることができない気がします。そこのハードルを下げる必要はありますよね。
一方で、周さんのご著書には専業主婦の幸福度は高いというデータも出てきました。妻が働いていても働かなくても、日本の男性は家事をしない。なので妻が働くと、単に自分の負担が増すだけという事情もありますが、いずれにせよ幸せと感じているならそれでいいという見方もありそうです。
幸福度は貧困に関係ない
周:アメリカや中国が個人単位で幸せを考えるのに対して、日本では世帯単位で考える傾向があります。それに加えて、日本は金銭を重視しない傾向もある。
別の機会に日米のフリーランス女性同士を比較した研究をしたことがあるのですが、アメリカ人は多少長時間働くなどしても賃金が高いほうの仕事を選ぶのに対し、日本人女性は収入を犠牲にしてでも家族との時間を確保しようとします。家族との時間を持つことは重要なことではありますが、社会的規範の影響もあるのかなと。
専業主婦の幸福度は収入にあまり左右されず、貧困状態でも、子どもと十分時間を過ごすことができ、夫婦関係、子どもの健康や学業成績も良好であれば、幸福度が高いという結果が出ています。
中野:それならそのままでいいのではないかとも思いがちですが、一方でそういう幸福度の高い方が、抑うつ傾向にあるケースもあると指摘されています。客観的にみると懸念材料があり、幸福度の高さも過去の厳しい経験に比べた虚像ではないかという見方を提示されています。
周:幸福度は主観的なもので、収入のように客観的に把握できるものではありません。誰と比較するかということにも左右されるし、過去と比較して少しよくなったかとかで高くなることはあり得ます。やや極端な例ではありますが、抑うつの指数が高くて「自殺を考えることがある」、でも治療していないという人が幸福度では満点をつけているケースもあります。
中野:そういった家庭は政策的に支援すべきではないかと本で書かれていました。
周:中高年男性の引きこもりなども同様ですが、本人から断られても、本当は助けが必要なケースもあると思います。支援する側もジレンマを感じると思いますが、本人が今の状態で幸せと言っているからと放置した結果、本人にはもちろん、主婦の場合は子どもにも悪影響がでる可能性がありますから。
(次回につづく)
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