中野:私のインタビューした専業主婦たちの中にも、本人も漠然と「働いたほうがいいのかな」と思っているし、少し状況を整えることができれば働くことはできそうではあるという人はたくさんいました。でも「子どもが帰ってくるまでの仕事では大して稼げないし」「夫が家のことがおろそかにならないならと言う」など社会的にも彼女たちを踏みとどまらせる要因がたくさんあると感じます。
周さんの事例では、客観的にみると経済的に困窮していて、働くこと自体はできる状況にある。でも、あえて働いていない人たちが多いと。
周:貧困層なのに自ら選択して専業主婦になっている人たちにどのような特徴があるかというと、学歴が低い、技能があまりない、子育て負担が重いといった項目が出てきます。でもこれだけ困窮しているのに、なぜ働かないことを自ら選択しているのかという疑問が拭えませんでした。
保育園は応能負担なので、低収入世帯が非常に安い値段で使えます。これを使わないのは、高額の現物給付を放棄していることと等しいのです。最低賃金でもいいから働いたほうが楽になるのでは?と疑問を持ってきました。
中野:働くことにハードルを感じてしまうというのは、私のインタビューした層にも見られました。法制度、雇用システム、保育の枠組み、前世代からの規範など専業主婦を前提としたさまざまな仕組みがあるということを私は書いているのですが、周さんの調査ではとりわけ、「子どものため」という項目に〇をつける女性が多いと描かれていましたね。
「子どものため」には客観的根拠がない
周:そのとおりです。「子どものため」とか「働きに出るとしつけが行き届かなくなる」と考える人が多いようです。でも、例えば、東京都の小中高校生調査(東京都受託事業「子供の生活実態調査」詳細分析報告書2018」第6部第1章)によると、保育園の利用経験がある場合とない場合について困窮家庭同士で比較すると、保育園に行くことは子どもの健康や学業成績に対してポジティブな影響をもたらしています。
もちろんデータは不完備なところもあり、この結果がすべてではありませんが、親が家にいるほうが「子どものため」になるというのは、母親自身の思い込みというだけで、客観的な根拠はありません。
中野:「市場賃金が低い一方で、家事育児活動の価値が高い」という表現をされていますが、賃金を上げていく必要がある一方、家事・育児を自分の手ですることに重きを置いている人が多いと。周さんのインタビューの記述からは、保育園に行く選択肢があまりないというか、家で見るほうを「当たり前」と捉える向きがあるように見受けられました。
周:保育園に対する偏見もあるように思います。「野放しするところなので、そんなところに子どもをいれたくない」と話す方もいました。義理の母がいいイメージをもっていないから自分で見ているというケースもあります。親世代が幼稚園で子育てしていたことから、そのエコー(反響)効果が表れて、娘の世代も保育園を利用しようと思わなくなります。一代で断ち切るのはなかなか難しく、保育園に関する正しい情報や利用体験を与えることが必要です。
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