統合失調症の28歳女性が「切り絵」から得た希望

若い感性が伝統工芸に吹き込む「新たな風」

坂下奈美さんの切り絵と(左)、それをもとに父・信広さんが施した蒔絵(写真:坂下さん提供)

輪島漆器の産地・石川県輪島市。交流スペースに展示された切り絵作家・坂下奈美さん(28)の作品が目を引いた。黒い色紙から髪の毛より細い線を切り出し、動物の毛並みや花びらの優美な曲線、幾何学模様、アルファベットなどを描いている。

聞けば、坂下さんは16歳で統合失調症を発症し、一進一退の病状が続く8年前ごろから切り絵を始めた。幻覚・幻聴などが起こる精神疾患と向き合いながら、「ものの見え方も含めて、病気を利用してやろう」と考えるようになり、2年ほど前から症状は改善しているという。どんな思いで創作に励んできたのか。

石川県輪島市内にある「みんなの保健室わじま」で自身の作品を紹介する坂下さん(記者撮影)

厚生労働省のホームページによると、統合失調症は幻覚や妄想という症状が特徴的な精神疾患で、それに伴って、人々と交流しながら家庭や社会で生活を営む機能が障害を受け(生活の障害)、「感覚・思考・行動が病気のために歪んでいる」ことを自分で振り返って考えることが難しくなりやすい(病識の障害)、という特徴を併せもっている。

慢性の経過をたどりやすく、その間に幻覚や妄想が強くなる急性期が現れる。新しい薬の開発と心理社会的ケアの進歩により、初発患者のほぼ半数は、完全かつ長期的な回復を期待できるようになった。以前は「精神分裂病」と呼ばれていたという。

発症のきっかけは「祖父の死」

発症のきっかけは今のところ明らかでなく、進学・就職・独立・結婚などの人生の進路における変化は、契機となることが多いそうだ。坂下さんの場合は、祖父・広さんの死だった。

「祖父が亡くなったその日に症状が出ました。とにかく起き上がれないし、幻覚が見えたり、幻聴が聞こえたりします。幻聴が悪口のように聞こえ、騒いでしまうこともありました。高校1年生の夏に発症し、2学期は保健室登校、その後は不登校になり、1日20時間ぐらい眠る生活が続きました」

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