統合失調症の28歳女性が「切り絵」から得た希望 若い感性が伝統工芸に吹き込む「新たな風」
創作活動と、精神疾患は関係しているのだろうか? 坂下さんに聞いてみると、童話『不思議の国のアリス』を作品に取り入れた理由について、こう紹介した。
「ものや自分の体の大きさが、通常とは異なって感じられることを『不思議の国のアリス症候群』というそうですね。統合失調症と関連があるといわれていますが、はっきりしたことはわかっていません。私もそう見えた時期がありました。作者のルイス・キャロルが統合失調症だったという説もあるそうです」
症状改善にしたがって作風に変化も
症状と作風にも関連があるらしい。20代前半、服用する薬の種類が多い割に、なかなか症状が改善しなかった。眠かったり、イライラしたり、空腹を感じたりと不調を感じ、副作用を抑えるためにまた薬を飲む……という悪循環が続いたそうだ。25歳で薬を減らしたことにより、少しずつ症状の改善が見られるようになった。その前後で、創作の手法が変わったという。
「今、紙に下絵を描いてから切っていますが、症状が改善されない時期は何も描かなくてもスイスイ切ることができました。細かい部分に集中していながら全体を俯瞰的に見る目は、統合失調症で苦しいときのほうが優れているということなんです。バラの花びらなどを見比べるとわかります。20代前半は、ものすごく緻密。今の作品は当時と比べると粗いです」
そう言われて見比べてみると、そのようにも見える。しかし、どの作品を見ても緻密さは「すごい」と言うしかないレベルである。主観的な作風だけでなく、坂下さんの切り絵に対する意識も、病状の改善と前後して変わっていったそうだ。
「あるテレビ番組で幼い男の子が骨折をしたとき、『これは与えられたチャンス』と言ったことにハッとした」と話す。けがや病気、障害などによって行動が制限されることがあっても、それをプラスに捉えることが大事だと気づいたそうだ。
「発症時は『一生、治らない』と言われ、大きなショックを受けました。しかし、それから10年。『病気を生かしてやろう!』と思うことができるようになったのです。すると幻覚や幻聴が少なくなっていった。つまり症状が改善されていきました」