統合失調症の28歳女性が「切り絵」から得た希望 若い感性が伝統工芸に吹き込む「新たな風」
小・中学校のころから、友人らとのコミュニケーションに困難を抱えてはいた。統合失調症を発症したことにより高校に通うことが困難に。学校側の支援で2年生に進級はしたものの、不登校の状態が続いたため、1学期を終えた後で通信制の公立高校へ転入。日曜日のみスクーリングで授業を受けて単位を取得し、卒業した。
もともと絵を描くことが好きで、高校時代は美術部に所属。イラストレーターを目指していたこともあったが、題材を与えられ、締め切りに間に合わせて描くという創作活動は、なかなか難しいと感じていた。
絵を生業とすることを諦めかけていた20歳のころ、切り絵作家・佐藤雅美さんの作品とウェブ上で出合い、見よう見まねで挑戦。ブログの連絡先からアクセスし、作品について助言を求めたところ佐藤さんから「伸びるから、ぜひやりなさい」と励まされた。
作品はやがて美術展にも飾られるように
坂下さんは週5日、火曜から土曜まで、近隣住民が集って介護などの困り事を相談する「みんなの保健室わじま」に通い、制作に励んでいる。医療・介護関係者がそっと見守ってくれるスペースであり、安心して時間を過ごせる。週に1つのペースで作品を仕上げるが、なかには半年がかりの大作もある。
多くの作品を生み出すにつれ、輪島市内の美術展に出品し、石川県七尾市で個展を開催。都内や名古屋、北海道などでのグループ展にも参加するようになった。活動を始めて9年目を迎え、輪島駅前のカフェや鍼灸院などから「作品を展示させてほしい」と声がかかり、作品を購入したいという注文もある。
坂下さんが題材とするのは動植物や風景など。輪島市白米町にある棚田、白米千枚田の切り絵は、金の色紙を重ねることで夕焼けの風景を鮮やかに描き出した。細かい線はすべてフリーハンドで紙を切って表現してある。「花や動物は、ちょっと刃先がずれても、それが味になる。自然ってよくできているなぁと思う」と話す。
童話を題材とすることにも興味を持っており、近年は文字と絵を合わせた作品も多い。細かい文字を表現した切り絵は、額装してしまうと「ペンで書いたんでしょ?」と言われてしまうそう。そこで、立体感がわかるように制作過程を紹介したり、作品を持ち上げて見せたりした動画をSNSで紹介したところ、大きな反響を集めた。