世界トップのシンクタンクは日本と何が違うか 米CSISで働く若き日本人研究者に見える光景

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船橋:発信の場を提供する、オーディエンスも招けると、そういうことですね。シンクタンクの1つの機能として。

越野:はい。例えば、日本部で言えば2013年に安倍晋三総理が「Japan is Back (日本は戻ってきました)」のスピーチを行ったのもCSISです。今年の1月には、岩屋毅防衛大臣がCSISで日本の防衛大綱を初めて英語で発表しています。また、レックス・ティラーソン・アメリカ元国務長官が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を発表したのも、CSISです。つまり、シンクタンクには、各国政府が発信の場として活用しているというイメージもあります。

船橋:なるほど。では、CSISではどんなテーマを研究しているのですか。最近のプロダクトなど具体的なお話を伺えますか。

越野:アジアプログラム全体としては、主にインド太平洋地域におけるアメリカの戦略や、日米およびパートナー国の役割を検討した中長期的な戦略を研究・提言しています。最近ですと、地域における日・米・豪・印の戦略的枠組みの役割や、中国の海洋シルクロードがもたらす戦略的・経済的な課題、グレーゾーンにおける抑止の理論と実践などについての報告書を公に発表しています。

私が最近携わっているプロジェクトには、「Strategic Japan(ストラテジック・ジャパン)」というものがあります。このプロジェクトでは、毎年4名ほど日本の有識者を招致し、日本の政策研究をワシントンの政策・戦略をめぐる議論に反映することを目指しています。

昨年はFree and Open Indo-Pacific(自由で開かれたインド太平洋)をテーマにし、地域における安全保障や価値観の役割、インフラの投資戦略などについて、論文を執筆いただきました。ワシントンの忙しいポリシーメイカーたちに効果的に発信するため、内容をラジオ番組のようにまとめた20分間の「ポッドキャスト」を製作して発信もしました。その延長として、私自身はFOIPの中でもデジタル空間(サイバー空間)に着目し、編著の1章を担当することになりました。先日は研究のため、初めて対外出張に行かせてもらったりもしました。

近年力を入れている「日本」の発信は?

そして、日本部では、ほかにも非伝統的な新しい研究・発信を行っています。最近CSISが力を入れているのは、衛星写真の分析です。例えば、「Asia Maritime Transparency Initiative(アジア海洋透明性イニシアチブ)」というプロジェクトがあります。南シナ海を航行する船舶の船籍を特定したり、中国が進める人工島の建設の様子を追ったりして、分析をウェブサイトで公開しています。

船橋:南沙諸島の話ですね。岩礁を埋め立てちゃった。

越野:視覚的な説得力があるので、ニュースになるものは積極的にメディアに提供して、CNNなどに取り上げられたり、日本でも通信社が発信したりしています。ホワイトハウスから情報提供の依頼を受けることもあります。韓国部は北朝鮮の衛星写真を分析していて、先日はミサイル基地のオペレーションを再開したことを発信しました。ハノイの米朝首脳会談の直前です。意図的だったかどうかはわかりませんが、重要な政治日程の前に研究を発表することで、会談に影響を与えうる力にもなるのではないかと思います。

船橋:衛星写真を24時間365日ずっと録画して、それを解析、分析するとなると、たいへんなコストがかかると思いますが、例えば、このアジア海洋透明性イニシアチブの場合、資金はどのように手当てしているのですか。 

越野:具体的なことはわかりません。ただ、シンクタンクでは、価値が認められる研究には、出資という意味で、さまざまな方面から資金が付きますし、それがどんどん拡大していく場合もあります。これは、シンクタンクの政策起業力とつながる話だと思います。

(後編に続く)

船橋 洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長

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ふなばし よういち / Yoichi Funabashi

1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒業。1968年朝日新聞社入社。北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年~2010年12月朝日新聞社主筆。現在は、現代日本が抱えるさまざまな問題をグローバルな文脈の中で分析し提言を続けるシンクタンクである財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの理事長。現代史の現場を鳥瞰する視点で描く数々のノンフィクションをものしているジャーナリストでもある。主な作品に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『カウントダウン・メルトダウン』(2013年 文藝春秋)『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』(2006年 朝日新聞社) など。

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