越野:1つだけというのはなかなか難しいのですが、印象に残っていることは、日々世界中の著名な研究者や政府高官が出入りをしていて、緊張感やスピード感溢れる空間であったことです。例えば、ヘンリー・キッシンジャー(元アメリカ国務長官。ベトナム戦争の和平交渉で1973年にノーベル平和賞受賞)先生のような歴史的な人物とエレベーターに乗り合わせたとか、ズビグネフ・ブレジンスキー(政治学者リンドン・ジョンソン大統領顧問、ジミー・カーター大統領補佐官などを歴任)先生がホリデー・パーティーでダンスをされているのを目にしたこともありました。
かねてから書籍や論文を通じて憧れを抱いてきた本物の戦略家に出会い、直接意見交換をできる機会があるのは、世界トップのシンクタンクで働くことの特権です。なにより、毎週数百ページの論文を読み、計1万ワード論述する大学院の課題と同時並行でインターン(週に約16時間程度)を行う過酷な生活の中で、外交戦略家になりたいという自らの目標や夢を見失わずに研究に打ち込むための、大きな励みにもなりました。CSISには過去に訪れた各国の首脳の写真も飾ってあります。そういう環境はどんなに寝不足でも、つねにエネルギーが湧いてくる場所でした。
役に立ったことでいうと、政策や外交交渉のアジェンダが作られていく過程をつぶさに見ることができたことです。CSISの中でも日本部はかなり大きなセクションで、クローズドなミーティングも頻繁に行われている場所です。そういうミーティングは公にはなりませんが、有識者のみならず、日本政府の官僚や自衛隊の制服組の方、財界人などもいらっしゃって、日米の対話や、3カ国4カ国の、いわゆる「1.5トラック」の協議が行われています。
そこでは、今後課題になることは何かというところからベースのアイデアを出し合って、少しずつ結論が固められていきます。そういう最先端の協議の過程をつぶさに見ることができたことは、本当に役に立ちましたし、名刺交換を通じてその後東京やワシントンで開かれる勉強会に呼んでもらえたり、1対1の意見交換の場を設けてもらえたりもし、専門性を極めるチャンスにもなりました。
船橋:シンクタンクの世界ではよく使う言葉ですが、「1.5トラック」とはどういうものかを説明していただけますか。
越野:はい。国際間協議で「トラック1」は公式な政府間協議のことを言い、「トラック2」は民間の有識者同士の意見交換の場です。その中間が「トラック1.5」で、CSISのような大規模なシンクタンクなどがホストとなって、両国の政府高官や有識者を招いて非公式な討論を行う場という認識です。
アメリカのシンクタンクは「回転ドア」
船橋:アメリカのシンクタンクは「リヴォルヴィングドア(回転ドア)」だと言われますが、それにはどんな意味合いがあるのでしょう。CSISの場合、どんな「回転ドア」になっているんですか?
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