「存在のない子供たち」が描く中東の難民の惨状 主人公役もシリア難民、現実の事象を映画化
それでも「私は映画の力を信じていると同時に、大変な理想主義者でもある。たとえ映画が何かを変えることができないとしても、少なくとも、何かの話し合いのきっかけになったり、考えるきっかけになると確信している」と、ラバキー監督は語る。だからこそ「絶望感に襲われる代わりに、私の職業を武器として利用し、子どもの将来に何かしらの影響を与えられることを願うことにしたの」と、作品への思いを吐露している。
ラバキー監督は配役を決める際、この物語の境遇に重なるような人たちを探し求めた。作品には、誰もが知るようなスター俳優が出演しているわけではないが、それでも画面からにじみ出てくるような登場人物たちの存在感は圧倒的なものがある。
ラバキー監督は「まったく偽りがないことが非常に重要だった。だから彼らには飾らずに、ありのままでいい、と言い聞かせただけだった。彼らの中にある真実だけで十分だったから」と振り返る。それだけにラバキー監督は彼らに真っすぐ向き合い、撮影に6カ月、収録した映像素材は520時間にも及んだ。
主人公のゼイン少年を演じたゼイン・アル=ラフィーアは、シリア内戦の治安悪化から家族でレバノンに逃れたシリア難民の子どもである。国連UNHCR協会のインタビューで「学校へ行きたかった。学校は教育と平和の場所だから」と語っていたゼイン少年は、本作の撮影を「スタッフは愛情を注いでくれたし、僕を人間として扱ってくれた。演技が終わって家に帰るととてもしあわせな気持ちでした」と振り返る。
主人公役の子もシリアから逃れた難民
そんなゼインのことを「彼の目にはとても悲しい部分があります。彼は私たちが話していることを理解している。それは同じような境遇だからです」と評するラバキー監督は、彼のことを「われわれのヒーロー」と称賛する。
本作がカンヌ国際映画祭で上映された後に、2018年8月にノルウェーへの第三国定住が承認され、家族とともに移住することとなった。彼の人生もまた変わり始めているようだ。
くしくも今年は子どもの基本的人権を国際的に保障するための“子どもの権利条約”が採決されて30周年となる。日本でも子どもが犠牲となる痛ましい事件が頻発し、「子どもをもつ責任」が改めて問われているこんな時代だからこそ、この映画のメッセージを考える意味があるのではないだろうか。
(文中一部敬称略)
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