「MMT」や「反緊縮論」が世界を動かしている背景 「AOC、コービン」欧米左派を支える主要3潮流

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これらの政策主張の背景には、不況時の財政赤字を罪悪視せず、貨幣を創出することによって政府支出が行われることを肯定する近年の欧米の経済学の諸潮流が存在する。

反緊縮経済理論の主要3潮流

いずれも、これまで緊縮・財政再建論を支えてきた新古典派マクロ経済学と対抗する、多くはケインズ経済学の現代的潮流であるといえる。

1つの潮流は、主流派ケインジアンの流れである。

有名なものでは、イギリスのニューケインジアン左派のサイモン・レンルイス、アメリカのニューケインジアン左派のノーベル経済学賞受賞者ポール・クルーグマン、同じくアメリカの左派ケインジアンでノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ、アメリカのニューケインジアンの大御所マイケル・ウッドフォード、スペインのニューケインジアンのジョルディ・ガリなどが影響を与えている。

非主流派では、特に、ポスト・ケインズ派の一派であるハイマン・ミンスキーの流れをくむMMT(現代貨幣理論)の論者の貢献が大きい。ランダル・レイ、ウォーレン・モズラー、ビル・ミッチェル、ジェームズ・ガルブレイスらが主な論者である。

また、非主流派ではそのほかに、信用創造廃止・ヘリコプターマネー論の潮流があり、大きな影響を与えている。

すなわち、今日の貨幣のほとんどは民間銀行が貸付先の預金口座に数字を書き込むことで創造され(=信用創造)、そのことが経済不安定の原因になっていると見なす見解で、そこから、信用創造を廃止し、政府が民衆のために支出することで貨幣が創造される仕組みに変えるよう主張する議論である。

代表的な一派にポジティブ・マネー派がある。イギリスにあるシンクタンク、「ニュー・エコノミック・ファウンデーション」に多いようである。

そのほか、ポスト・ケインジアンのアナトール・カレツキー、日本でも『円の支配者』で知られるリチャード・ヴェルナー、ヘリコプターマネー論で有名なアデア・ターナーなどがこうした主張をしている。

次のような主張は、よくマスコミなどでMMTの主張とされているが、これらの3派にも共通する、経済学の標準的な見方である。

・通貨発行権のある政府にデフォルトリスクはまったくない。通貨が作れる以上、政府支出に予算制約はない。インフレが悪化しすぎないようにすることだけが制約である。
・租税は民間に納税のための通貨へのニーズを作って通貨価値を維持するためにある。言い換えれば、総需要を総供給能力の範囲内に抑制してインフレを抑えるのが課税することの機能である。だから財政収支の帳尻をつけることに意味はない。
・不完全雇用の間は通貨発行で政府支出をするばかりでもインフレは悪化しない。
・財政赤字は民間の資産増(民間の貯蓄超過)であり、民間への資金供給となっている。逆に、財政黒字は民間の借り入れ超過を意味し、失業存在下ではその借り入れ超過は民間人の所得が減ることによる貯蓄減でもたらされる。
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