先のコメンテーターが有力な識者の意見として挙げていた事例が、英国が1999年に最低賃金を復活させて2018年までに2倍を超える水準にまで引き上げたというものです。その結果として、低い失業率を維持したままで英国の生産性が大いに高まったというのです。
しかし現実には、2017年の1時間当たりの労働生産性は53.5ドル、経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国の中では19位と、日本(47.5ドル・20位)と大して変わらない状況にあります。おまけに、英国の物価は日本に比べてかなり高いので、国民の大半が生活水準の悪化に苦しんでいて、政治への不信からEU離脱派とEU残留派に分断し、民主主義の土台である社会の結束が破壊されてしまっています。
「原因」と「結果」を取り違えている
この考え方の最大の問題というのは、アベノミクスの論法と同じく、「原因」と「結果」を取り違えてしまっているということです。景気拡大が6年も続いているにもかかわらず、国民の8割がいまだにそれを実感できないのは、ポール・クルーグマンの「インフレ期待」なる理論が「原因」と「結果」を完全に取り違えているにもかかわらず、政府がその理論を信じて壮大な経済実験を実施してしまったからです。
「物価が上がることによって、景気がよくなったり、生活が豊かになったりする」のは経済の本質ではありません。経済の本質からすれば、「景気がよくなったり、生活が豊かになったりする結果として、物価が上がる」というものでなければならないのです。
経済学の世界では、「鶏が先か、卵が先か」の議論が成り立ってしまうことがありますが、実際の経済は決してそのようには動いていかないものです。経済にとって本当に重要なのは、「どちらが先になるのか」ということなのです(当然のことながら、「景気がよくなる」とは、大多数の国民がそう感じることが前提であります)。
例えば、国税庁の「民間給与実態統計調査」によれば、2017年の日本の給与所得者の平均年収は432万円です。1997年の467万円をピークに翌1998年から金融システム危機をきっかけに減少し始め、この20年余りで日本人の平均年収は実に7.5%も減ってしまっています。
給与所得者の平均年収が下落し始めたのは1998年、消費者物価指数が下落を始めたのが1999年ですから、この2つの統計の時系列は「原因」と「結果」の関係を見事に示していることがわかります。
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