「社員を解雇する権利」求める人が知らない真実 データが実証「解雇規制緩和」にメリットなし

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今回は「解雇規制を緩和すれば生産性が高まる」という神話を斬ります(撮影:尾形 文繁)
オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。退職後も日本経済の研究を続け、『新・観光立国論』『新・生産性立国論』など、日本を救う数々の提言を行ってきた彼が、ついにたどり着いた日本の生存戦略をまとめた『日本人の勝算』が刊行された。
人口減少と高齢化という未曾有の危機を前に、日本人はどう戦えばいいのか。本連載では、アトキンソン氏の分析を紹介していく。

物価が先か、最低賃金が先か

先週の記事(日本人が大好きな「安すぎる外食」が国を滅ぼす)には、予想外の大きな反響がありました。コメントを見ていくと、一部誤解があったようですので、最初に少し補足します。

『日本人の勝算』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

まず、物価が低いから最低賃金が安いのか、最低賃金が安いから物価が低いのかという問題です。私は、最低賃金が安いから物価が低くなるのだと分析しています。私が社長に就任する前の小西美術工藝社の歴史を見ればわかります。

もともと、文化財を修理する会社は、決して多くはありませんでした。しかし、漆塗りの椀を買う人が減っていることを受けて、漆職人を抱える業者が次第に文化財修理の世界に集まるようになりました。

供給は増えているのに、神社仏閣の「補修」の需要は一定です。企業は生き残りをかけて過当競争となり、価格を下げるようになりました。全社が最後まで生き残りたいので、どこかが価格を下げたら、皆が下げます。

しかし、需要は増えませんので、小西美術工藝社を含めた各社が、生き残るために職人を非正規雇用にしたり、全体の給料を下げたりしました。当然、品質も犠牲になります。では、どこまで価格を下げることができるかというと、それは労働市場の規制、とりわけ働く人の賃金を最低賃金にする水準までしか下げられません。

顧客がこのような値下げを求めていたかというと、それは違います。顧客が求めていない、顧客がまったく喜ばない、職人の給料を犠牲にする企業生き残り戦略です。

これと同じことが、日本全国で起きています。

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