「社員を解雇する権利」求める人が知らない真実 データが実証「解雇規制緩和」にメリットなし
このように感覚的な判断に頼ると、判断を間違えることが少なくないので、丁寧な検証が絶対に必要なのです。
日本の雇用規制は、本当に厳しいのか
ということで、まず、言われるほど日本の雇用規制は厳しいのか、生産性向上に悪影響をおよぼしているかを検証しましょう。
先のWEFのデータによると、労働市場の効率性と生産性との間に、かなり強い0.73という相関係数が認められます。日本人経営者が挙げた雇用規制がビジネスに大きな影響を及ぼしているというのは、理屈上は正しく、労働市場の効率性が非常に大切なことがわかります。
しかし、雇用規制が生産性に対して「悪影響」を及ぼしていると言うためには、日本の雇用規制が諸外国に比べて厳しいことが証明されないと、理屈が通らなくなります。
では、日本の労働市場の効率性はどうなのでしょうか。WEFの評価では、日本の労働市場の効率性は世界第22位で、決して低い評価ではありません。ということは、日本の労働市場の効率性は、日本の生産性向上を阻害しているどころか、実は貢献していることになります。
日本では、日本の雇用規制は厳しいというのが常識のように捉えられていますが、実はそれは事実とは異なります。実際、日本の労働市場の効率性を構成するいくつかの項目では、高い評価がされています。たとえば、「労使間協力が強い」は第7位、「解雇手当が少ない」は第9位、「給与設定の柔軟性が高い」は第15位と高評価になっています。
にもかかわらず、なぜ日本の労働市場の雇用規制が厳しいと感じる経営者が多いのでしょうか。
理由はおそらく、アメリカとの比較にあると思います。アメリカの労働市場の効率性は世界第3位と極めて高い評価を受けています。おそらく日本の経営者や学者は、日本の生産性がアメリカより低いのは、日本の雇用規制がアメリカより厳しいことに原因があるという単純な比較をしているのではないかと思います。
「『ものづくり大国』日本の輸出が少なすぎる理由」では、日本はもっと輸出を増やすべきだと書きました。その際に「日本では現状、GDPに占める輸出比率が低い。その分、伸びしろが大きいので輸出を増やすべきだ」という提案をしました。
同じように、ある時、私が日本の輸出比率の低さを指摘すると、ある有名エコノミストから「経済大国は輸出比率が低いものだ」と反論されたことがありました。しかし、その方が証拠として出されたのは、アメリカのデータだけでした。たしかにアメリカの輸出比率が低いのは事実ですが、アメリカとの比較だけを根拠に物事を決めてしまっては、判断を誤りかねません。
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