「社員を解雇する権利」求める人が知らない真実 データが実証「解雇規制緩和」にメリットなし

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国にとっては、その余分な従業員が無駄に使われている場合にのみ問題になります。なぜならば、その人の潜在能力が発揮されていない分、国全体にとってのマイナスになるからです。つまり、これらの人たちが解雇され、別の生産性のある仕事に就くことができて初めてプラスになるのです。それまで無駄にされていた資源が活用されるようになるからです。

人手不足なのに「解雇規制」緩和を求める異常

昔と違い、日本は今、深刻な人手不足に陥っていますので、企業の経営陣が解雇規制の緩和を求めていることには違和感を禁じえません。なぜ、十分に実力を発揮できていない従業員の潜在能力を引き出せていないのか、そもそも自分の経営手腕に問題があるのではないかと、経営陣は考え直すべきではないかと思います。

とはいうものの、今いる会社では実力の発揮できていない人が、人手不足に苦しんでいる企業に移動し、そこで自分の実力を発揮し始めることができるのなら、多少、生産性があがることが期待できます。

しかし、先ほども述べた通り、解雇規制と生産性との相関係数はたったの0.32です。生産性ランキング世界第28位の日本の生産性の低さを考えると、解雇規制が緩和されても、解雇の対象となる従業員が相当の規模にならないかぎり、大きな効果が出るとは思えません。

要するに、他の先進国と比べて、日本の生産性が潜在能力に対して異様に低い最大の原因が解雇規制だということは考えづらいので、解雇規制を緩和するだけで生産性が劇的に改善することはないのです。

私の認識では、日本の生産性が低い原因は、①従業員20人未満の小規模企業で働く労働人口の割合が高い、②女性活用ができていない、③最低賃金が低い、④最先端技術の普及率が低い、⑤輸出ができていない、⑥ルーチンワークが多い、などです。

それらに比べて解雇規制の影響は小さく、ある種の「ごまかし」としか思えません。経営者は「生産性が低いのは自分たちのせいではなく、労働者が悪い」と、責任を押し付けている感が強いのです。

解雇規制の緩和も、まったく無意味だという気はありません。生産性向上に徹底的にコミットし、グランドデザインを描くのであれば、その一部として、解雇規制の緩和も考える価値はあるかと思います。

しかし、企業規模の拡大、輸出戦略の推進、最低賃金の継続的な引き上げなどの政策もないまま、解雇規制を緩和すれば、経営者の立場がさらに強くなり、またしても経営者が制度を悪用して、生産性をさらに引き下げる結果を引き起こすことも十分に考えられるのです。

ですので、経営者に従業員をクビにする権利を与えるのは、慎重の上にも慎重を期するべきなのです。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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