「社員を解雇する権利」求める人が知らない真実 データが実証「解雇規制緩和」にメリットなし

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当たり前のことですが、アメリカは世界百何十カ国の1つに過ぎません。しかし、日本では世界の状況を語る際に、アメリカのことだけを念頭におくエコノミストが非常に多く、辟易させられます。

雇用規制と生産性との間の相関は強いですが、雇用規制が厳しくなければ、その国の生産性は必ず高いのかを検証すると、そうではないことが容易に確認できます。

イギリスは雇用規制の評価は世界第6位ですが、生産性は第26位です。カナダは雇用規制が第7位ですが、生産性は第22位です。アングロサクソン系はやはりアメリカに影響を受けて雇用規制を緩和してきましたが、単純にアメリカと同じことを部分的にやっても、同じ結果は出ないことを示す、最高のデータだと思います。

一方、フランスは労働市場の効率性はイギリスと比べてずっと低い第56位ですが、生産性はイギリス第26位に対してフランス第27位と、大差ありません。

この事実からは、2つのことがわかります。1つ目は、労働市場の効率性と生産性との間に相関関係はありますが、決定的ではないこと。もう1つは、日本はそもそも労働市場の効率性に関しての評価は低くないので、仮に規制緩和をしても、それほど生産性の向上は期待できないということです。

「解雇規制」緩和は生産性を高めない

日本の労働市場の効率性が厳しく評価されている項目が一つだけあります。それが「解雇規制」で、第113位です。おそらく日本人の経営者が経営の足枷だと感じ、緩和を希望している雇用規制とは、この解雇規制のことではないかと思います。つまり、「従業員のクビを切りやすくしてほしい」というのが彼らの本音のように感じます。

しかし、解雇規制を緩和すると、本当に生産性が向上するのかどうかは、別途検証する必要があります。仮に解雇規制を緩和して従業員をクビにしやすくしても、生産性の向上につながらなければ、意味がありません。

解雇規制の強さと生産性の相関係数を実際に調べてみると、わずか0.32でした。

たしかに解雇規制を緩和すれば、多少プラスになることもあるかもしれませんが、経営者の多くが期待するほど劇的な生産性の向上にはつながりません。

解雇規制が緩和されたからといって、相当割合の社員を解雇する会社はあるでしょうか。おそらく、クビを切られる人は社員のごく一部でしょう。ごく一部の従業員のクビを切ったからといって、生産性がいきなり向上したりするものではありません。

たしかに、一部の社員を切ることはできるようになるので、コストの削減にはなりますし、その分利益は増えます。しかし、切られる人が付加価値の創出の邪魔をしていないのであれば、その人をクビにするだけでは、その企業が作り出している付加価値総額は増えません。これでは付加価値の項目の入れ替えになるだけで、生産性の向上にはならないのです。

その増加した利益を再投資するなどして付加価値を向上することができて初めて生産性がプラスになりますが、人手不足でどこまでできるかは疑問に思います。

この点も日本ではキチンと理解されていません。日本企業は社会貢献の一環として、必要以上の余剰人員を雇用していると言われてきました。いわゆる「窓際族」の存在です。この「窓際族」が、生産性が低い理由の1つともされています。

しかし、この認識は正しくありません。国の生産性は付加価値総額を人口で割ったものなので、余分とされている人が付加価値の創出に貢献していなければ、会社で働いていようが、失業者になろうが、国全体の生産性は変わりません。

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