東芝の車谷会長兼CEOに就任1年で見えた光景 「偉い人」を輩出してきた巨艦はどこへ向かう
「経営不振が表面化してから、新卒マーケットで東芝の人気は落ちてきていたのですが、今、だいぶ元の状態に戻ってきています。いわゆる2次市場、つまり、キャリア採用では、ハイタレントな人の間で『技術の東芝』に関心が高まっているようです。私も積極的にハイタレントな人に会っているのですが、こんな人がうちに興味を持ってくれているんだ、と驚くほど優秀な人が東芝を希望してくれます。
これまでどおり、新卒採用は続けますが、若い人、中堅、トップにかかわらず、各事業に適応したハイタレントな人の採用に力を入れています。そうすることで、スピード感をもって東芝を変えていく、成長させることがすごく大事ではないかと考えております」
「サーバント・リーダーシップ」の理論
ところで、東芝は「コーポレート・ガバナンス(企業統治)先進企業」と言われてきた。1998年、日本企業では早期に執行役員制度を導入。1999年に社内カンパニー制、2000年に指名委員会、報酬委員会を設置、2001年に社外取締役3人体制へ移行するなど、日本の企業統治改革の先端を走ってきた。ところが「形はよかったのですが、中身が伴わなかった。つまり、優秀な方々を迎えながら、本当に企業統治をお任せしていなかった」(車谷氏)。
車谷氏の発言は、不正会計における経営トップらを含めた組織的な関与、当期利益至上主義と目標必達のプレッシャー、上司の意向に逆らうことができないという企業風土、適切な会計処理に関する経営者の意識と知識の欠如、監査法人をはじめとする外部が監視しにくい方法で会計処理が行われていたことなど、第三者委員会が指摘した東芝の問題点に対する解決策に聞こえるが、『君の力が役に立つと思われ望まれているのであれば、自分がやりたいか否かではなく、その仕事に一生懸命取り組みなさい』(前出)という小山五郎氏の言葉を体現しようとしているようにもうかがえる。
そこで、日本の「偉い人(経営者)」がまず目にすることはない、同志社小学校(京都市)の校歌の一節を紹介しておきたい。
「えらいひとになるよりも よいにんげんになりたいな」(谷川俊太郎作詞)
この小学生向けの平易な表現に隠された奥深い意味について熟考したいものだ。実は、この一節は、新約聖書の一書である「マルコによる福音書」9章35節に記してある「いちばん先になりたい者は、すべての人の後になり、すべての人に仕える者になりなさい」の教えを表現していると考えられる。キリスト教主義の小学校らしい校歌である。
この歌詞は、経営学者のロバート・グリーンリーフが、「まず相手に奉仕し、その後、相手を導くものである」という「サーバント・リーダーシップ」の理論に通じる。我が国で、同概念を実践した経営者としては、2001年から2005年まで資生堂の社長を務め、『サーバント・リーダーシップ』(共著)も上梓した池田守男氏が有名である。
同氏は東京神学大学神学部で学んだ敬虔なクリスチャン。社長に就任した池田守男氏は、この考え方に基づき経営改革に取り組んだ結果、2003年度にはそれまでの2期連続赤字から黒字に転じた。
小山五郎氏の教えも、「サーバント・リーダーシップ」の1つと解釈できる。車谷氏は偉い人ではなく「よい人」になれるだろうか。その姿勢でいい結果がついてきたとき、「本当に賢い経営者」という評価を獲得するに違いない。経営危機に陥った東芝を見事立て直した土光氏はその質素な生活ぶりから「メザシの土光さん」と称された。中期経営計画が完了する2023年、車谷氏は、「何の車谷さん」と呼ばれているだろうか。
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