東芝の車谷会長兼CEOに就任1年で見えた光景 「偉い人」を輩出してきた巨艦はどこへ向かう
具体的には、運動し筋肉を増やし、仲間と協働し、競争心を高め、自分の居場所を確保すればいい。この理屈からすれば、経営者、とくに成功している経営者が80歳を超えても現役として活躍していることからも明らかだ。あくまで私見ながら、西田氏のような「偉い人志向の人」は、テストステロンが多いのではないかと思う。
もう1つの偉い人の特徴は「承認欲求」が強い点である。「君、お勉強ができて偉いね」と言われて頭をなでてもらうと喜ぶ子供を想像していただきたい。この子たちは、他者から認められることに快感を覚える。この行動原理が健全に働いている間はいいが、1つ狂いだすと、「偉い人」であり続けるために不正も一生懸命やってしまう恐れがある。
もともと、テストステロンは、原始時代以来、男性が狩猟を行うために必要な闘争心を促すために備わったものだとされている。ところが、企業という現代組織では、狩猟で必須の能力が、ライバルとの競争、足の引っ張り合いに使われることがある。それが、テストステロンが多い「偉い人」同士の争いになると激しさを増す。
その一事例が、週刊誌報道にまで発展した西田氏と佐々木氏の確執だった。
西田氏は後任として、「この人以外にはいない」と太鼓判を押し、佐々木氏を社長に任命したように当初は高く評価していた。が、佐々木氏が社長に就任して以降、両者は対立し合うようになり、経営上のコミュニケーションさえおろそかになる。2013年、佐々木氏が副会長職に棚上げされ、後任として田中久雄氏が社長に昇格することを発表する記者会見の席で両者間の確執があらわになった。
西田氏は田中氏に対し「東芝をもう一度、成長軌道に乗せてほしい」と佐々木氏の経営手腕を暗に批判する発言をした。これに対し、佐々木氏が「業績を回復し、成長軌道に乗せる私の役割は果たした。そのように言われる筋合いはない」と反論したのである。「まるで子供の喧嘩だ」と揶揄する記者も少なくなかった。
「共感性に乏しい」というテストステロンが多い人の特徴は、競争心を高め、闘っているときには有利に働くが、いざ、テストステロンが多い者同士、つまり、闘争心あふれる者同士が対立したときには、憎しみが募るばかりである。可愛さ余って憎さ百倍、といったところか。
近年の東芝は財界で「偉い人」になることが目的化?
さて、東芝といえば、「財界天皇」と呼ばれる「偉い人」を輩出した日本を代表する企業である。今さらいうまでもなく、高学歴であるだけではなく、石坂泰三氏(元・第一生命保険社長)、土光敏夫氏(元・石川島播磨重工業=現・IHI社長)といった経団連(日本経済団体連合会)会長を務める「強いリーダー」が続いた。岡村正氏も日本商工会議所会頭を務めた。
何でもトップを目指す西田氏は、経団連会長就任に闘志を燃やし、御手洗冨士男氏(元・キヤノン会長)も、後任の最有力候補と考えていた。この財界で「偉い人」になりたがる文化が、東芝によい影響を与えていたとすれば、これも社会貢献に意欲を燃やそうとするテストステロンのなせる業かもしれない。
しかし、近年の東芝では財界で「偉い人」になることが目的化し、その地位確保に精力が注がれることで、経営陣が一枚岩でなくなってしまったという情報も流れている。その結果、経営陣が対立するだけでなく、本業に集中するという、本来優先すべき課題がなおざりにされたというのである。
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