東芝の車谷会長兼CEOに就任1年で見えた光景 「偉い人」を輩出してきた巨艦はどこへ向かう

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

「それは、学ばなくなるからだと思います。私はベンチャー企業の経営者、研究者など若い方々と、しょっちゅう付き合っています。会うたびにものすごく勉強になります。学ぶということは、ある意味、自分を客観化し、完全ではないと自覚できます。人は不安要素を持たなくなった瞬間から、学ばなくなりおかしくなってしまいます。

学ばなくなるということは、人とコミュニケーションが不十分になるということです。東芝は4万人強の優秀なエンジニアを抱える組織です。非常にロジカルな彼らとお互いに納得できるようにコミュニケーションをすべきでした。

下から出てきたアイデアや経営方針に対する示唆を経営者は真摯に受け止めて、経営に反映すればよかったのにと思っています。『家電は早く切り離したほうがいい』『原子力はリスクが大きすぎる』という意見もたくさんあったようです。でも、それらの意見は組織の中に埋もれていました。

トップが虚心坦懐になり、自分の判断は誤っているのではないかと認識していれば、戦略を転換できていたかもしれません。東芝は基本的にはトップダウン型組織ですが、マネジメントはボトムアップでやらないといけません」

「ファーストペンギンになってください」

ボトムアップ型マネジメントの要は、社員が積極的に新しい事業を創造し取り組んでいく「自走式働き方改革」にある。

車谷氏は会長に就任してから、現場を積極的に回り従業員のモチベーションを上げるために、次のようなメッセージを送っている。

「『ファーストペンギンになってください』と言っています。ペンギンは群れを成して暮らしていますが、その中の1匹が、獲物を見つけるために天敵のアザラシがいるかもしれない所にボンと飛び込むと、その他のペンギンが続きます。最初に飛び込むファーストペンギンはリスクを取るわけです。

会社も同じ。最初にリスクを取ってでも獲物を見つけに行く人が出ないといけない。ファーストペンギンのような人が出ないと、組織はなかなか動かないものです。そこで、ファーストペンギンを評価するような組織にするため、給与、賞与、株式報酬の制度を提示していこうと考えています」

この発言の背景には、経営戦略の転換がある。

「過去20年間においては、ほとんどサイバー企業が現実の(フィジカル)企業から市場を抜き取って、ゼロサムゲームを展開してきました。ところが、雇用はあまり増えませんでした。その前の30年というのは、製造業が主役を務め、GDP(国内総生産)、雇用も増え皆がハッピーになりました。

これからの時代は、『サイバー・フィジカル』な新製造業が台頭し、再び資本主義が成長する過程に入るのではないかと思っています。東芝はその主役を演じよう、と従業員に呼びかけています」

こうした戦略転換の中で注目されているのが、リカーリング(Recurring=循環)・ビジネスである。

「これまでのメーカーは、いいモノを作り、売り切ってビジネスが終了したわけです。ところが今後は、修理、メンテナンスに力を入れ、その中から出てくるデータを見て、より効率的にお使いいただけるようなソフトウェアを入れる。そのようなプロセスにおいて手数料を頂戴するというソフトウェア型のビジネスモデルを展開していかなくてはならないということです」

このように動きに合わせて、車谷氏自ら優秀な人材の獲得に動き出している。

次ページキャリア採用では「技術の東芝」に関心が高まっている?
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事