前途多難の携帯ベンチャー IPモバイル 「予想外」の舞台裏
新規参入を目指すもサービス開始のメドが立っていない携帯ベンチャー。不動産大手、森トラストの傘下に入るという予想外の方針を発表したが、行方は不透明なままだ。(『週刊東洋経済』4月21日号)
「事業化断念との報道がありますが、そのような事実はございません」
4月10日の記者会見で、アイピーモバイルの杉村五男社長は紅潮した面持ちで話し始め、移動体通信事業の立ち上げへの意欲をあらためて示した。強気の背景にあるのは、新スポンサーの獲得だ。創業時から筆頭株主を務めた通信企画会社「マルチメディア総合研究所」の保有株(69%)を、不動産大手の森トラストが買い取ることで合意したのである。
同社が事業化断念の瀬戸際にあったのは事実だ。2005年に総務省から移動体通信用の周波数割り当てを受け、06年10月からデータ通信サービスを開始するはずが、事業計画の見直しや設備資金の不足などからメドが立たない状態だった。総務省からは資金調達をセットにした事業計画の変更を求められ、今年3月末が申請期限とされた。が、具体策が決まらないまま、4月11日の電波監理審議会では免許取り上げが議題に上ることまでも示唆された。そうした状況下、急きょブチ上げたのが「通信ベンチャー+不動産会社」という仰天の組み合わせだった。
不動産事業のイメージが強い森トラストだが、ホテル・リゾート事業に加え投資事業も柱の一つだ。同社では今回の案件について「技術力や将来性を評価したもの」(広報部)と説明している。だが、アイピーモバイルの社員自身も驚いた森トラストの登場は、3月中旬から交渉を始めて急ごしらえしたもの。杉村社長を中心に創業メンバーの個人的な人脈を頼って、資金の出し手をやっと見つけたというのが実情だ。
実のところ、森トラストによる支援は「バックアップ・プラン」(関係者)にすぎなかった。水面下で極秘に練り上げていた本命のプランが別にあったのである。
2ギガヘルツ帯の周波数を獲得したアイピーモバイルは、全国規模の移動通信サービス展開を前提としており、通信インフラ構築や顧客獲得には軽く1000億円以上の費用がかかる。最大のネックはこの巨額資金を集める「信用」である。