前途多難の携帯ベンチャー IPモバイル 「予想外」の舞台裏
幻に終わったアッカとの連携
新規事業参入者として、すでにデータ通信サービスを始めたイー・モバイルの親会社であるイー・アクセスは、固定系のADSLサービスを展開し、事業を黒字運営する東証上場企業だ。こうした信用力も手伝い、イー・モバイルはすでに資本金と借入枠で合計約3600億円の資金を確保している。
対して、ベンチャーのアイピーモバイルには何の実績もなく、通信設備もゼロから造り上げる必要がある。周波数の獲得後に増資で集めた資本金も50億円程度にすぎない。アイピーモバイル関係者によると、こうした窮状を一気に乗り越えるため画策したのが、アッカ・ネットワークス(ジャスダック上場)との連携だった。同社はイー・アクセスと同様のADSLサービスを展開、すでに100万回線以上の契約を積み上げてきた実績がある。 具体的には、アイピーモバイルがアッカの傘下に入り、事業立ち上げを進めるというプランだった。アッカには上場企業としての信用があり、通信技術者に加えサービス運営方法、顧客管理などのノウハウにも蓄積がある。両社の事業補完性も高い。そうした未来図を描くことで事業資金の調達をもくろんだわけだ。
しかし意中のアッカは、今年夏にも割当先が決まる2・5ギガヘルツ帯の周波数獲得を目指し、無線ブロードバンド通信方式の一つ「WiMAX(ワイマックス)」の利用を前提に準備を進めている。一方、アイピーモバイルが使う通信方式は「TD−CDMA」。双方で利用する規格はまるで違った。
関係者によると、連携の前段としてアイピーモバイルの既存株主と投資ファンドの支援により、アッカの大株主であるNTTコミュニケーションズ(第1位・19・7%)や三井物産(第3位・10・3%)の株式を買い取る話も浮上したようだ。しかし、大株主の中には昨年春から株式を買い集めて第2位に躍り出たライバルのイー・アクセスもいた。アッカ経営陣の事業方針や大株主の意向など、複数の利害関係者による思惑が交錯する中、アイピーモバイルの起死回生策はついえた。
救世主として森トラストが現れたことで、周波数の返上という最悪の事態はすんでのところで回避した。不動産事業で巨額プロジェクトの推進に慣れている森トラストは、今後の資金調達面で心強い存在だ。アイピーモバイルの竹内一斉執行役員は「関東圏内での設備投資で数百億円、さらにエリアを広げると1000億円を超す資金が必要。そういった認識のうえでの筆頭株主だと考えている」と増資に期待を寄せている。
もっとも現段階では親会社が森トラストに代わると決まっただけで、具体的な経営方針は白紙。資金調達スキームを作り上げ、事業計画の変更申請を総務省に提出しなければ再スタートが切れない点では、以前と状況は同じ。総務省は周波数割り当ての前提として、通信事業者に2年以内の運用開始を求めている。そのリミットは今年10月とすぐそこまで来ている。
森トラストはどこまで肩入れするのか。アッカとの提携話が復活することはないのか。一命を取り留めたものの、アイピーモバイルの前途はなお五里霧中だ。
(書き手:井下健悟 撮影:吉野純治)
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