「センター試験の大改革」に秘められた深い意味 大学入試センターの山本廣基理事長に聞く
山本:そうなんですが、実際には池上さんが指摘された採点の問題がまた、悩ましいわけです。選抜試験である以上、公平性、客観性のある採点が不可欠です。
加えて、センター試験の結果が出る前に個別大学に出願しなければならない受験生が、何点取れたのか速やかに自己採点できないといけないという条件もある。大規模一斉試験の性質上、どうしても問える力は限られたものにならざるをえないのです。
今おっしゃった受験産業の問題についても、2、3年たったら、彼らは記述式問題必勝テクニックを売りにしているのではないかという気がします。解答欄には、必ずこういうことを書かないと駄目、とか(笑)。
池上:ありえますね、それは。そこが腕の見せどころ(笑)。
佐藤:どんな問題にしても、受験産業とのある程度のいたちごっこ自体は、避けられないでしょう。
山本:まあ、受験産業対策というわけではないのですが、問題は結構短いスパンで見直しをしていくことになるのではないかという感じを、個人的には持っています。そうしたことも含めて、われわれは当然、よりよい問題になるよう努力を続けたいと考えています。
共通テストに記述式問題を入れるというのは、何より「こういう問題に対応できる力を鍛えよう」という、高校生に対するメッセージだと思いますから。
池上:大事な視点ですね。
山本:同時に、この場をお借りして言っておきたいのは、受験生の思考力、判断力、表現力といったものを記述式できちんと見るという点では、やはり大学の個別試験の役割が大きいと思うんですよ。入学者選抜においては、共通試験と個別試験が「両輪」であるべきで、共通試験になんでも盛り込もうというのは、違うと思います。
佐藤:盛り込もうと思っても、限界はある。
山本:実際には、センター試験イコール大学入試だと思っている人が、世の中にはたくさんいるんですね。採点に半年くらいの時間をいただけるのなら、記述式の理想的な問題を作って、じっくり学力を測ることも可能かもしれませんが、55万人の受験生がいるわけですから。
池上:個別試験をきちんとやっている大学では、記述式問題は1人の答案を2、3人の先生が見て、平均を取りますよね。それもなかなかに骨の折れる作業なのだけれど、真面目に学生を選抜しようと思ったら、そこで手を抜くわけにはいきません。
佐藤:大学入試センターの試験で基礎的な学力を見るから、その先は個々の大学が責任を持って学生を選ぶということですよね。
英語の試験に「話す」は必要なのか
池上:新テストでは、記述式問題の採用に加えて、民間の力も借りつつ英語力を4技能フルで測るという「改革」が行われます。この点については、どうでしょう?
佐藤:私の意見から言わせてもらうと、この試験に少なくとも「話す」はいらないと思うんですよ。かつて私が受けた外交官試験の外国語は、英語だったら英文和訳と和文英訳のみ。これは明治時代から変わらないのだけれど、語学力に関してはそれで完璧に測ることができるのです。