「センター試験の大改革」に秘められた深い意味 大学入試センターの山本廣基理事長に聞く
池上:国際会議に出かけて、夜のパーティーで外国人と話をしようと思っても言葉が出てこない。いつも言うのですが、だったら語学力以前に自らの教養を問うべきですよね。話すべき中身がなければ、しゃべりたくても、しゃべれませんから(笑)。
中身があって、どうしても英語でしゃべりたいというモチベーションがあれば、言われなくても英会話をマスターしようと勉強するでしょう。
佐藤:逆に言えば、ただ話せたらいいのか、ということです。イギリス・アメリカ以外のいろんなところで英語が普及し、日常的に使われているのはどういうことかといったら、そういう国では、生活のためにそれを習得せざるをえないという事情があるからです。日本は、日本語空間の中で生活が成り立つわけで、そういう意味で「大国」なんですよ。
山本:先人のおかげで、高等教育も日本語で受けられるんです。
池上:そうです。みんなそれを当たり前だと思っているのだけれど。
佐藤:例えば、イギリスのブリティッシュ・カウンシルなどが運営する英検のIELTS(アイエルツ)がありますよね。2010年から日本英語検定協会が、日本での共同運営を始めました。
このIELTSには、アカデミック・モジュールとジェネラル・トレーニング・モジュールがあるのですが、後者はありていに言えば、移民労働者になるための英語です。最初からそういう試験をやっているわけですよ。言葉とは、そういうものです。
中途半端なレベルで「話す」をテストしても意味がない
山本:そもそも、英語であいさつができて、オリンピックに来た人に道案内ができるぐらいしゃべれるようになったところで、学問もできなければ、商取引もできないでしょう。
佐藤:私は、スターバックスに行って、最近ほっとするのです。あそこでは10年ほど前には、例えば“caramel macchiato one, extra hot”とかいう「英語」が使われていました。文章に動詞も入らなければ、前置詞も入らない。
山本:単語だけをつなげる。
佐藤:これはpidgin English(ピジン・イングリッシュ)といって、植民地での英語なのです。要するに、命令を聞くためだけの言葉。しかし、最近は「キャラメルマキアート、1つ」「ミルク、熱くしてください」などと、店員が言うようになりました。「宗主国」のマニュアルどおりには、やらなくなったわけですね。
山本:マニュアルが変わったんじゃないですか(笑)。
佐藤:でも、あのpidgin Englishが大手を振ってまかり通るようなことにならなくて、本当によかったと思う。わが国の文化はかろうじて維持された、とほっとしたわけです。
山本:今の話で思い出しましたが、アメリカに行ったときに、ダウンタウンのファストフード店に入って注文しようと思ったら、店員が何を言っているのかわからないわけです。こちらは一応、向こうの先生たちと研究室では、なんとか会話できるのだけれども。
池上:ブロークンで聞き取れない。
山本:聞き返しても、やはり同じように言う。まさにマニュアルどおりで、「この相手は英語があまり得意ではないようだから、やさしい言葉でゆっくり話してやろうか」という対応をしようともしないんですね。結果的にコミュニケーションが成立しないのです。
佐藤:やはり、英会話ができればいい、という話ではないのです。もちろん、ブロークン・イングリッシュが試験問題になるわけではないのでしょうが、中途半端なレベルで「話す」ことを試しても、ほとんど無意味ですよ。
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