東京のホームレスは今晩どこで眠りにつくのか 大阪など大都市周辺で暮らす彼らの変遷

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僕自身も取材のために短い期間、上野公園で生活をしたことがあった。ホームレスの世界では適当な場所に勝手にテントを建てるのは御法度で、ボスのような人が仕切っていて、その人に頼んで許可を取らないと住むことはできなかった。公園に住むのに、ホームレスの許可を取らなければならないというのも変な話だが、ボスにあいさつに行き、許可をもらった。

僕は、薄いテントしか持っていなかったのだが「それだけでは寒いぞ」と言われて、炊き出しで手に入れたという毛布を貸してくれた。ほかにも、消費期限切れの菓子パンをいくつかと、漫画『ゴルゴ13』の単行本をくれた。ゴツくてちょっと怖い雰囲気の人だったが、根はとても優しい人だった。

これは、運がいいことだったと後からわかった。テント村を仕切っている人の中には、元暴力団員の人もいた。その人たちはかなり、厳しく仕切っていた。

ホームレスたちから家賃と称して金品を巻き上げる人もいた。ホームレス生活をしていて家賃を取られるとは意味がわからない。元暴力団員のホームレスにいじめられたり、暴力を受けたりしている人もいた。

元暴力団員が仕切っている縄張りは、公園内に複数あった。そのため縄張り同士で仲が悪くなっていた。お互いに嫌がらせをし合ったり、ときにはケンカをしたりすることもあった。

「ホームレスのテント村ですら争いが起きるなら、戦争はなくならないよなあ」

と思った。

外で寝るのは、思ったよりずっと寒いしとても恐ろしい

夜になり公園内にテントを張って寝たのだが、ボスが言っていたとおり恐ろしく寒かった。まだ10月だったので、寒いと言ってもたかがしれているだろうと思ったのだが、甘かった。

土の上に直接寝ると、体温がグングン地面に奪われていく。あっという間に体は冷えて、ガチガチと震えが止まらなくなる。地面には、段ボールを何枚も敷くなどして、断熱しなければならない。

段ボールよりも、さらに寒さを防ぐことができるのが“すのこ”だ。すのこがあれば体を地面に触れずにすむので、体温の低下を防ぐことができる。越冬の援助としてホームレスにすのこを貸し出している団体もあった。

災害時など外で寝なければならなくなった場合、すのこがあるだけでずいぶん楽になる。なければ段ボールや雑誌などを敷き詰める。

ボスにもらった毛布は、結果的にとてもありがたかった。毛布を隙間なく身体にぐるぐる巻きにすると、少しずつ体温が上がってきた。

しかしそれでもなかなか眠れない。外に人が通るたびに、ビクッとして目が覚めてしまう。まれに大声を出す人もいた。外で寝るというのはとても無防備で、とても恐ろしいのだと知った。

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