1990年代後半からは公園がホームレスの定住スポットになった。東京都内では、上野公園、代々木公園、新宿中央公園などホームレスが大勢住む公園があった。ちなみに新宿駅西口地下から退去したホームレスの多くは、都庁の隣にある新宿中央公園に移動した。
筆者はその頃、東京に遊びに来た母親と上野公園の美術館に出かけた。
そのときの上野公園は、まさにホームレスの町と化していた。右も左も所狭しとズラリとテントが並んでいた。その光景があまりに衝撃的だった。
当時、上野公園内で最もホームレスが密集していたのが、東京国立博物館の南西側にある大噴水周りだった。とくにトイレの近くは水を運びやすいので人気だった。
たくさんのテントが林立していたが、すべてのテントは退去可能な作りだった。なかには荷車を改造して、楽に移動ができる住居もあった。現在河川敷で見られるような、しっかりとした小屋はなかった。それには理由がある。
警察に強制撤去される「山狩り」
皇室関係者が上野公園の美術館などを訪れた際は、上野公園に住んでいるホームレスはいったん、全員強制的に退去させられていたのだ。その行事は「山狩り」と呼ばれていた。
「上野の山から警察に狩り出されるから、山狩りって呼ばれてるんだよ」
と出会ったホームレスは言っていた。
当時、上野公園内には、数百人のホームレスが住んでいたと思う。そのなかにテロリストが紛れた場合、テロ行為を防ぐのはとても難しい。だからとりあえず全員排除するという方針だった。
数百人のホームレス全員が、自分の全荷物を持って移動するのだから大変だった。
制服、私服の警察官が大勢公園を警らし、ピリピリとした空気が立ちこめた。
ホームレスたちは近くのお寺の脇に、自分たちの荷物を置いた。ものすごい数の荷物が山のように積まれていた。
皇室関係者を乗せた自動車が帰還された後、やっとホームレスは自分の荷物を持って公園の中に戻ることができる。雨や雪が降っている日は、みんなビショビショに濡れ悲壮感が漂った。荷物を盗られたと落ち込む人もいた。
そんな山狩りはちょくちょくあったので、いつでも移動できるテントが建てられていたのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら