「ポケモンGO」ARイベント仕掛人が語る舞台裏 アナログとデジタルが交差する独特の世界観

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真鍋:やはり、ひとつのソフトで全部の機能を持たせると大変なので、プロトタイプを開発する際は、例えばパソコンでいじりやすいところはパソコンでいじって、iPhoneでしかできないものはiPhoneでするみたいに、開発のときはあえて環境を分けてますね。

馬場:なるほど。ないものは100円のアプリを買うというように、パッと思考を切り替えられるのもすごいし、その信号を受けられるシステムを常日頃から開発したり整備していることもすごい。そういった研究資産があるからこそ、外部システムをポンっと接続させて、まったく新しい体験がすぐに試せるんですね。

真鍋:ひとつのアプリに落とし込むのは結構、面倒くさい作業なんですよね。でも、設計さえできてしまえば、割とどのエンジニアでもできる。それよりも、最初のトライ&エラーが大事で、とにかくいろんなことを試せたほうがいい。ライゾマはその環境が揃っているんです。

モーションキャプチャーも設置しているので、うまくいかなかったらモーキャプでも試そうと考えていましたし、最初は現場にカメラを大量に設置するというプランもあったんです。超音波で位置情報を取得する方法も試してみた。

毛利庭園は電源を取れる箇所が少なくて、なおかつ、雨天でも対応できなきゃいけないですし、状況と自分たちの技術の引き出しを瞬時に把握して、ベストかつ、短納期でやれることを考えていく。訓練というか、経験値みたいなところもあるとは思うんですけど。

馬場:僕、昔は自分でプログラムを書いていたこともあったんですけど、今はもうやらなくなっちゃったんですよね。

真鍋:そうなんですか?

馬場:だから、頭にアイディアが思い浮かんだとしても、パッとはできないんですよね。誰かにお願いしないといけない。でもそれだと、もうその人のインスピレーション次第になってしまうので、お願いしておいて比べるのもあれですけど、自分で試行錯誤するときに比べてスピード感が3分の1ぐらいに落ちてしまう感覚があります。

結局、その初速の違いが最終アウトプットに決定的に響いてくる。今日一番、驚いたことはこの「スピード感」ですね。発想から試作までが早い。だからこそ、これだけの規模とクオリティと、そしてたくさんのプロジェクトができるんだな、と。

さまざまな人の手を借り、完成したAR庭園

川島:UIに関しては、Nianticのサンフランシスコオフィスから3Dアーティストの上田真子が参加してくれたり、AR庭園の名前はポケモン社の田中雅美さんが、ロゴは『Pokémon GO』のUXデザインをしている石塚尚之が、ヒーローグラフィックの原案はポケモン社の藤本明恵さんが作ってくれています。みんな本来の仕事が別にある中、手を動かしてくれました。

今回、ポケモンのAR庭園の横で、VRのヘッドセットを被って、ポケモンのジムに上がっていくという展示もやったんです。東京大学廣瀬・谷川・鳴海研究室と長尾涼平氏が作った「無限階段」を応用して共同開発しましたが、デザインや実装の部分は僕がやってるんですよ。会期中も現場で、VRゴーグルをつないでバクの修正とかしてました。

馬場:え! 川島さんも自分で……絶対にお忙しいはずなのに。

川島:やらないと寂しいんですよ。自分で手を動かせるところをどうにか探してはやってるみたいな感じです。あと今回、ライゾマチームと一緒にやってすごく勉強になったのは、真鍋さんがスタッフの意見を聞きながら大きな部分のディレクションをしっかり握っているところ。僕と真鍋さんが最初に仕事でコラボレーションしたのは、Ingressが文化庁メディア芸術祭でグランプリを取ったプロジェクトなんですが、その時の展示のことを思い出しましたね。

馬場:それがお二人の馴れ初めなんですね。

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