「ポケモンGO」ARイベント仕掛人が語る舞台裏 アナログとデジタルが交差する独特の世界観

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川島:それ以前からの知り合いですが、展示プロジェクトのコラボレーションとしては、それが初めてですね。その時から思っていたことなんですけど、真鍋さんが自らスタッフに背中を見せていくというか。その姿を見て、スタッフも一丸となって進んでいくという空気がすごくよくて。

その時は、国立新美術館の3カ所にポータルを作って、そのポータルのリアルタイムの状況を壁三面に投影していくというものだったんです。3つのポータルの状況で展示が変化していく、ユーザーが『Ingress』を通してインタラクションできる展示でした。

『Ingress』のデータを利用できるAPIを芸術祭の展示で使ったのはこのときが初めてで、うまく動かない部分が出たり、23時くらいまで真鍋さんがやっているんですけれど、真鍋さん自身も個人の作品が受賞されていてその展示もあるのに、大変そうな空気を微塵も出さずにずっと自分で手を動かしながらやられていて。

真鍋:手を動かしているのが結局、いちばん楽しい時間なんですよね。よし、きた!みたいな。これでも昔と比べれば、やはり自分でやる時間ははるかに減っていますけれどもね。

川島:僕らはその部分が似ているのかもしれないですね。

真鍋:チームの上に立つようになると、未来の話ばっかりになって、現在のプロジェクトに関われなくなることはあると思います。実際に動いているプロジェクトはエンジニアがやってる、というような。それはそれで寂しいですよね。なので、老害と言われない程度に現場にも関わっていきたいです。

五感へのアプローチでARは次のステージへ

馬場:今回何よりもすごいと思ったのは、視覚ではなく聴覚をハックして、気配みたいなものでポケモンを現実世界にあらしめていること。これまでのARとはレベルがまったく違っていた。

川島:目だけじゃなくて、そのほかの五感も使えば、現実をもっと面白くしていけるんじゃないかと思っているんですよね。

馬場:真鍋さんの仕事だと、少し前にYCAM(山口情報芸術センター)で発表されたダンスパフォーマンス「border」を体験したんです。椅子に座って自分の意思では動けない状態にさせられて、感覚器官をすべて奪われて代替させられるんだけれど、その五感へのアプローチの仕方が、Nianticが五感をゲームの1要素にしていく考え方と引かれ合う部分があったのかな、と。

川島:人間って、耳を澄ましたり、遠くを見たり、歩き回ったりするために体がデザインされていると思うんです。でも今の世の中は、そういった行為を一切しなくてもいい未来をつくろうとしている。もし、狩りをしている時代なら、どこから動物の鳴き声がするのか、どこに気配があるのか、耳を澄まさないと分からないわけで。そういう体験を体はしたがっていて、だけれどなかなかそういう機会がないんじゃないかな、と。

演出振付家MIKIKO率いるダンスカンパニーelevenplayとのコラボレーション。 Rhizomatiks Research × ELEVENPLAY “border” (2015)(写真:Muryo Homma"Rhizomatiks Research")

真鍋:昔、『風のリグレット』のような、映像がない音だけのゲームソフトがありましたけど、人は映像がなくても、音だけで十分楽しめると思うんですよね。これからのアートのジャンルとして「diminished art」や「diminished reality(隠消現実感)」って絶対に出てくるのではないかと。

現実世界から何かを消すといった表現が、ARやVRの後に生まれてきているんです。「diminished reality」はある意味、今の人たちはもう体験していること。耳も澄ましてなければ、見るものも見てない。個人個人でそれぞれリアリティーが限定されていますよね。

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