人間は自ら望んで「AIの家畜」になるのか

尊厳と制度で考える「近代」と「ポストモダン」

これから訪れる「AI社会」での人間のあり方について、古川雄嗣氏と斎藤哲也氏が討論する(写真:monsitj/iStock)
「金と権力」の横行で不当な抑圧を受けたかと思えば、「AI社会の到来」でいずれ職を失う不安を抱える。つねにうっすらと感じる憂いをどう乗り越えていくのか? いま、哲学や思想を学んで考える意義とは何なのか。
前編に続き、『大人の道徳』著者の古川雄嗣氏と、『試験に出る哲学』著者の斎藤哲也氏が、下北沢の「本屋B & B」にて徹底討論した内容をお届けする。
前編:「空気を読まない」哲学が学校や企業を救う理由

現代思想を薄っぺらく受容するな

斎藤:古川さんの『大人の道徳―西洋近代思想を問い直す』では、ポストモダンの思想は扱っていませんよね。倫理というとき、フーコーやデリダなど、ポストモダンの思想家たちから汲み取るべきことも多いと思うんですけど、そのあたり、どうお考えですか。あるいは、ポストモダンからは少し距離を置いている感じですか?

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古川:いやいや、ポストモダンがダメだなんて思ってないですよ(笑)。僕は『大人の道徳』では、近代の理想にもう一度立ち還ることが必要なんじゃないかと言ってはいますけれども、その近代こそがもたらした負の側面があることも、もちろん理解しているつもりです。それをどう乗り越えていくのかを考えたのがポストモダンですから、彼らは非常に大事な問題提起をしていると思っています。

ただ、日本ではそれがものすごく薄っぺらく受容されていると思うんです。もう近代なんか終わった、理性なんて幻想だ、道徳なんてでっちあげだ、だから何でもありなんだ、何をやったっていいんだ。こんなふうな、おそろしく薄っぺらい話になってしまっている。それは本来のポストモダンでは全然ないだろう、というのが僕の考えです。

斎藤:それならよかった。そうすると、古川さんのおっしゃる「本来のポストモダン」の思想のなかで、魅力を感じる思想家って誰ですか?

古川:強いて挙げるとすれば、レヴィナスですかね。彼が本当のところ何を言っているのかは、実は僕にはあまりよくわからないんです。もちろん、単に僕の頭が悪いからなんでしょうけど、でもそれだけではなくて、むしろ僕のような人間が簡単にわかった気になってはいけない思想家だという気がするんです。「わからない」というよりは、「わかってはいけない」という感じがすごくする。

彼の思想の原点にはアウシュヴィッツの問題がありますけれども、これは近代の哲学や倫理、カントのいう「人格」だとか「人間の尊厳」だとか、そんなものがまったく霧消してしまうような地点だったわけです。そんなものはどこにもないということが世界中に暴かれてしまった。

そこから出発して、それでもなお人間の倫理を考えようとしたのがレヴィナスだと思うんです。近代において最高の倫理だとされていたものが、実は無に等しいものだった。だから近代は超えられなければならない、ということです。「ポストモダン」、つまり「近代を超える」というのは、本来そういう意味であって、それは「もう近代なんて終わったんだ」という安易な近代の否定とは、むしろ正反対だと思います。斎藤さんはどうですか。

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