東海テレビ「ドキュメンタリー映画」への執念 プロデューサー&監督に聞いた「続ける理由」

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──『ヤクザと憲法』の圡方宏史監督の作品に『ホームレス理事長』(2014年公開)があります。高校を中退してしまった球児たちの受け皿をつくろうとして資金繰りに奔走する学園の話ですが、ディレクターが活動の中心にいる理事長に突然借金を申し込まれる。東海テレビでいうとあのシーンが浮かんでくるんです。

阿武野:あれはカメラマンが冴えていて、取材者を映し込み、音声の人間にも録っておけよと指示を出している。長回しの末に土下座をする理事長を映している。「もう貸してやれよ」「おまえ、貸さねぇのかよ」と思わせていく。

重要なシーンはまるまる見せる

──引きずり込まれるというか。この人、ここで断ったら首を吊りかねないという緊迫感が伝わってきました。

阿武野:あれはたまたまピンマイクを理事長が服に着けていたんですね。車の中で「これから東海テレビに頼んでみる」と電話しているのを、カメラマンはワイヤレスで聞いていた。だから、話が来るぞと思っていた。ただ、それをディレクターにはあえて言わなかった。カメラマンがディレクションしている。スタッフワークとしては最高ですね。

高校を中退した球児たちの受け皿づくりにのため資金繰りに奔走する学園を取材した『ホームレス理事長』 ©東海テレビ放送

──しかもその長いシーンをまるまる使っていたのがすごい。

阿武野:じつは最初、5、6分くらいだったんです。非常にきれいな形に編集されていて、ディレクターの姿が見えない。それでラッシュを見せてくれと言った。

20分近くあったのかなぁ。これは全部使ったほうがいいと言った。理由は、ここまで取材者を引っ張り込むくらいにまで逼迫していた。貸すとしたら幾らまでか。いや、やっぱり貸さないか。観ている側まで、ぎゅっと胸をつかまれた気持ちになる。挫折した球児たちに何とか居場所をつくってやろうとする男の本気さが伝わる場面なんだから、ぜんぶ使わないのなら、いらないと言ったんです。

阿武野さんは、貸すという判断もありだったと振り返る。テレビだからドキュメンタリーだから「貸せない」というルールは存在しない。貸したなら、返済がどうなったかまで撮ればいいのだという。
テレビの世界で、そこまで言い切るテレビマンがいると知ってわくわくしてきた。余談だが、放映後の反響は大きく、思いがけず支援してくれる人たちや、企業があらわれたという。
朝山 実 インタビューライター

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あさやま じつ / Jitsu Asayama

1956年生まれ。著書に『お弔いの現場人 ルポ葬儀とその周辺を見にいく』(中央公論新社)。ほかに『イッセー尾形の人生コーチング』『父の戒名をつけてみました』『アフター・ザ・レッド 連合赤軍 兵士たちの40年』など。

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