東海テレビ「ドキュメンタリー映画」への執念 プロデューサー&監督に聞いた「続ける理由」

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東海テレビが劇場公開し、ロングラン上映されてきた作品に『人生フルーツ』(伏原健之監督・2017年公開)と、『ヤクザと憲法』(圡方宏史監督・2016年公開)がある。前者は、高齢の建築家夫婦の穏やかな暮らしを描いた作品。後者は、大阪の暴力団事務所にカメラが入りこみ日常生活を映していく内容だ。両極端に見えて、不思議と共通するポイントがある。いずれも登場人物が「がんこな人」たちなのだ。
温厚な建築家は、運ばれてきた食事を見て「木のスプーンにして」と言う。老妻がかわいらしく微笑み「そうだったわね」と取りに戻り、あの人は木の肌触りじゃなければ嫌なのよねという。ささいな場面から人柄が見えるのも特色だ。これらすべての作品に阿武野はプロデューサーとして関わってきた。

インタビューが終わっても回し続ける

──作品に阿武野さんの好みは影響しているのでしょうか。

阿武野:頑固ねぇ。口のわるい人は「変なおじさんシリーズ」とか言っていますが(笑)。僕は題材について口出ししたことはない。唯一「名張をやってほしい」と齊藤に言ったことぐらい。あとはすべてディレクターがやりたいと持ってきたものです。

きっと社会的に片隅に追いやられてきたような人たちが、どんな暮らしをしているのか。それを追っていくと、社会を映し出す鏡のようになってきたということかもしれません。

『人生フルーツ』は2017年の「キネマ旬報ベスト・テン 文化映画の部」で1位を獲得するなど、ドキュメンタリー映画としては異例のヒットを記録 ©東海テレビ放送

──樹木希林さんが伊勢神宮を訪ねるドキュメンタリー『神宮希林 わたしの神様』(伏原健之監督・2014年公開)の最後のほうに、立ち寄った飲食店でお土産にと渡されたものを、希林さんが「使わないから」と返す場面がありますよね。お店の女性が姉さんタイプで、2人が譲らない。

阿武野:あれは法被(はっぴ)でしたよね。つまらないエピソードのようにも見えますが、物を無駄にしないという人生観が出ている。

──角が立たないようにその場ではもらってく人が多いだろうに。

阿武野:取材がほぼ終わっているときに、あのやりとりがあった。後で見返していたときに、ここには重要な意味があるとわかってきたんですね。

樹木希林が伊勢神宮を訪ねるドキュメンタリー『神宮希林 わたしの神様』は2014年に製作された ©東海テレビ放送

──しつこく撮るというのは、東海テレビの伝統なのでしょうか。

阿武野:これでインタビューは終わります。「ありがとうございました」と片付けに入ったりしている間、職業病なんですかね、ディレクターというのは沈黙が嫌で「終わった」と言いながら話しかける。それをカメラマンも撮っている。

齊藤:なかには「終わります」と言ってからが勝負ということもあります。阿武野から「終わったあとにポロッと本音が出ることが多い」というのを聞かされてきたこともありますし、核心に迫ろうと思うと「そのまま回しておいてね」とカメラマンに言ったりもします。いつもそうしているわけではありませんが。

次ページ終わってからが勝負
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