特殊清掃の仕事は明確なマニュアルがあるわけではない。
例えば、掃除で使う薬剤1つにしても、自分でインターネットを調べ、入手して実際に一つひとつ試してみる。そしていちばんきれいに掃除できた商品を使っている。
お風呂の湯船の中が現場だったときは、どのように掃除していいのかわからなかった。仲良くしている同業者に頭を下げて、清掃方法を教えてもらった。
「とにかく現場をこなして、腕を上げていきました。かなりレベルは上がりましたが、それでも臭いの問題は今でも苦労しています」
孤独死、自殺の現場も体験
実にさまざまな現場を体験した。
清掃している途中で「C型肝炎」と書かれた診断書を発見して、肝を冷やしたこともあった。それ以来、分厚い手袋と、防護服は欠かせないマストアイテムになっている。
孤独死も多いが、自殺の現場も多かった。
風呂場を締め切ってガムテープで目張りしてその中で練炭自殺をした現場では、清掃のときにまだ煙たい状態だった。
ヘリウムガスで窒息死した部屋には、いくつものガスボンベが転がっていた。
タンスを部屋の真ん中に置き、夫婦が互いに首に紐をかけ、紐をタンスの上に通し、背中を向けて座った状態になって、縊死(いし)で亡くなった部屋もあった。
仕事を取るのもイチから自分でやらなければならなかった。行政や葬儀社などに営業周りをして、けんもほろろの対応をされた。
集客の中心になる、ホームページも自分たちで考えながら制作した。
値段を決めるのも簡単ではない。誰もが掃除という作業におカネは出したくないと思っている。格安をうたうライバル業者もある。しかし値段をただ下げてしまっては、経営が成り立たなくなる。
「もちろん凄惨な現場に衝撃を受けることはあります。他にもいろいろ大変なことはあります。でも仕事を“つらい”とか“嫌だ”と思ったことは一度もないですね。自分でやると決めて、はじめたことですから。一緒に働いている従業員も同じ気持ちだと思います」
山本さんは、率先して事業を開拓し、技術を磨いていった。
そんな2016年の6月、お父さんが亡くなった。山本さんは跡を継ぎ、28歳の若さで社長になった。
「父が亡くなったことは、もちろんショックでした。でも仕事に関して言えば大丈夫でした。ブランクなく引き継ぐことができました」
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