沖縄の彼女が波風立てても世に伝えたいこと 分断の歴史、葛藤の島でもがく若者たち(1)

拡大
縮小

その苦難の歴史を経験した世代にとって、新たな米軍基地は本土の差別意識の表われに映る。本土では基地を拒否する民意が尊重されるのに、なぜ沖縄の民意はないがしろにされるのか。差別構造を抱えたまま、沖縄は耐え忍んできた。外形的な基地の存在とは別に、沖縄の内面的な苦悩をも深めてきたのだ。

若い世代は、分断社会を見て育った

戦後75年近く、基地と共存を余儀なくされてきた県民のなかには、生活のために基地への依存を深めてきた人も少なくない。さらには新基地が建設される予定地の住民の一部には、国から県を通さない「直接補助金」が交付されるなど、政府の露骨な分断化が進められてきた。

住民投票でも選挙でも基地への賛否が焦点となり、そのたびに容認派と否定派が泥沼の戦いを繰り広げて地域とともに心も分断されてきた。

普段は優しさにあふれ、助け合って生きている大人たちが、基地問題になるとしこりを生む地域社会の実像を見て育ったのがいまの若い世代だ。基地問題と真剣に向き合えば心がささくれ立つことを知った若い世代は、この問題を遠ざけるようになり、やがて「触れてはならない」という閉塞感に支配されていく。

2017年4月に沖縄タイムス社と朝日新聞社、琉球朝日放送が共同で実施した県民意識調査で、辺野古新基地建設に「反対」と答えた人は全体の61%で、「賛成」は23%だった。18~29歳までの若い世代の「反対」は61%と平均値に達している。30代は68%、40代は58%、50代は53%、60代は67%、そして70代は59%。若者世代の「反対」は意外と多いことに驚く。

かと思えば、同じ調査で沖縄の最重要課題を問われ、70代以上は「基地問題」(48%)が最も多かったが、18~29歳は「教育・福祉」(41%)が最も多く、「基地問題」(24%)がこれに次いで多かった。

とらえどころのないように映る若者の意識だが、「戦後世代」が直線的に怒りをぶつけることが許されるとすれば、沖縄の若者は、基地容認派も含めて、感情や行動が相反するアンビバレントな葛藤のなかで漂っているようにもみえる。

その若者の間で葛藤の殻を破る新しい動きが芽生えてきた。(つづく)

辰濃 哲郎 ノンフィクション作家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

たつの てつろう / Tetsuro Tatsuno

1957年生まれ。慶応義塾大学法学部を卒業後、朝日新聞社に入社。支局、大阪社会部を経て、東京社会部で事件担当や遊軍キャップ、デスクなどを務める。2004年退社。主な著書は『ドキュメント マイナーの誇り―上田・慶応の高校野球革命』 『海の見える病院 語れなかった「雄勝」の真実』、共著は 『歪んだ権威 密着ルポ日本医師会~積怨と権力闘争の舞台裏』 『ドキュメント・東日本大震災 「脇役」たちがつないだ震災医療』。佼成学園高校で甲子園に出場。慶応大学では投手だった。関連して著書に『ドキュメント マイナーの誇り・上田慶応の高校野球革命』がある。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【逆転合格の作法】「日本一生徒の多い社会科講師」が語る、東大受験突破の根底条件
【逆転合格の作法】「日本一生徒の多い社会科講師」が語る、東大受験突破の根底条件
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT