性的虐待を人格交代で凌いだ女性の壮絶半生 トラウマ治療で乗り越えた48歳女性の軌跡

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ついにバランスが崩れたのは2010年。きっかけの1つは、当時放映された人気ドラマ「Mother(マザー)」の虐待シーンです。これを見た母親が、「こんなかわいそうなこと、ようするな。こんなんやったら産まんかったらええのに」とつぶやいたのです。

なつきさんのなかで煮え立つ「おまえが言うな」という母親への怒り。このとき、ずっと抑え込んできた負の感情が決壊してしまったのかもしれません。

なお、この頃は「恐ろしいほどの量の薬」を飲んでいましたが、もはや効き目はなく、薬の切れ目に強いフラッシュバック(時間や場所が虐待被害の時に飛ぶ、鮮明な記憶のよみがえり)が起きるような状態でした。

「処方薬依存」治療との出合い

現在の主治医と出会ったのは、それから間もなくのこと。数年前に「解離性同一性障害(多重人格障害)」の診断を受けたものの、なかなか治療を受けられる病院が見つからなかったのですが、今の病院が「処方薬依存」の患者として、なつきさんの入院を受け入れてくれたのです。

過去25年、さまざまな病院の精神科にかかってきたなつきさんは、今回もこれまでと同様に「入院して強制退院させられるだけだろう」と思っていました。「病気を治してくれること」など、期待もしていなかったのです。

しかし、この病院で受けた治療は、かつて経験してきたものとはまったく異なっていました。入院後間もなく、主治医はなつきさんの過去のエピソードに照らしながら、解離性障害について詳しく説明してくれました。それまでは記憶が欠けていることが不安で仕方がなかったのですが、説明で病気をある程度理解できるようになったことは、なつきさんにとって大きな前進でした。

またこれまでは入院すると薬漬けにされ、保護室に入れられたり、保護着で拘束されたりしてきたのですが、今回はそれもありません。治療の中心は、患者の仲間同士で行われるミーティング。初めのうちはほかの人の話を聞いても、「自分のほうが大変だ」としか感じませんでしたが、しだいに仲間に対して連帯感のようなものを抱き、大きな力をもらうようになりました。

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