「婚外子として生まれました」。取材受付フォームから連絡をくれたのは、40代後半の女性です。メッセージには、両親が結婚できなかった事情や、自分の命について悩みながら過ごした10代の頃のことなどが書かれていました。
これまでいろんな感情を乗り越えてきたのでしょう。つらかった過去を伝えつつも、彼女の文面に強い怒りはなく、静かに凪いでいました。
谷崎涼子さん(仮名)、47歳。柔らかな空気をまとった人です。約束をしたその日は、35度を超える暑さでした。落ち着いて話せるように入ったカラオケ店の個室はひんやりと隔離され、新宿の街の喧騒が遠くに感じられました。
父にやけに気軽に話しかける“いとこ”の正体
いつも家には、お母さんと涼子さんの2人きり。父親は地方の大学で教える教授でした。そのため、父親が金曜の夜に地方から帰宅し、土曜の夜には家を出ることを、小さいときは何とも思っていなかったそう。
でも小学校に入り、友だちの家と自分の家の違いに気づくようになると、疑問が芽生え始めます。なぜ父親と母親の苗字が違うのか? 母に尋ねると「離婚しているから」という答え。それなら確かに不思議はありません。
それにしても、何かおかしい。もやもやとした思いがふくらんだのは、小3のときでした。父親が遊園地へ連れていってくれた際、6歳上の「いとこ」を紹介されたのですが、彼女は涼子さんの父親に「ねぇ、ねぇ」とやけに親しげに話しかけていたのです。
この人は誰? お父さんは「いとこ」と言っているけど、うそな気がする――。疑問に思ったものの、涼子さんに本当のことを説明してくれる大人はいませんでした。
謎が解けたのは、小学校高学年のとき。母親の実家に帰省した際に、祖母と母親の会話が聞こえてきたのです。
「3人でおこたに入って、私はお絵描きをしていたんです。私が没頭していて何も耳に入っていないと思ったのか、祖母が父の名前を言って、『あそこの娘さんは、どうしてるの?』みたいな話をして。母は『○歳になったみたいよ』とか『どこの学校に行ってるみたいよ』とか答えている。そこで祖母が“いとこ”の名前を言ったので、『あぁ、やっぱり、あの子は“いとこ”じゃなかったんだ』とわかりました」
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